比叡 / 横光利一
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も、伝教大師が都に近いこの地に本拠を定めて高野山の弘法と対立したのは、伝教の負けだとふと思った。これで
の方が一段上の戦略家だと思った。定雄は高野山も知っていたが、あの地を選んだ弘法の眼力は千年の末
不明な雪路を渡ろうというのである。弘法は政府と高野山との間に無理が出来ると行方をくらまし、問題が解決するとまた出て
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。千枝子はときどき立ち停って、まだ雪を冠っている丹波から摂津へかけて延びている山山の峰を見渡しながら、
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残して清をつれ、ケーブルで山に登った。定雄は比叡山へは小学校のときに大津から二度登った記憶があるが、京都からは
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していくことが出来るのかと、無我夢中に暴れ廻った延暦寺の僧侶達の顔と一緒になって、しばらくは友人たちの顔が彼の脳
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の日から彼は子供を姉に預け、千枝子と二人で大阪と奈良へ行った。それをすますと見残した京都の名所を廻って、最後
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鳴った。千枝子はときどき立ち停って、まだ雪を冠っている丹波から摂津へかけて延びている山山の峰を見渡しながら、
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引きつれての関西行の機会はなかなか来なかった。それが京都の義兄から今年こそは父の十三回忌をやりたいから是非来るようにと
結婚してから八年にもなるのに、京都へ行くというのは定雄夫妻にとって毎年の希望であった。今まで
なのは自分であろうかと思ったりした。そのくせ京都へは幾度も一人で来ていながら、まだ彼は一度も墓参をし
二人で大阪と奈良へ行った。それをすますと見残した京都の名所を廻って、最後に比叡山越しに大津に出てみようと定雄は
小学校のときに大津から二度登った記憶があるが、京都からは初めてであった。千枝子はケーブルが動き出すと、気持ちが悪いと
これでは京にあまり近すぎるので、善かれ悪しかれ、京都の影響が響きすぎて困るにちがいないのである。そこへいくと弘法
して生涯安穏に世を送った弘法は、この叡山から京都の頭上を自身の学力と人格とで絶えず圧しつけた伝教の無謀さ
て考えた。出来得る限り自然の力を利用して、京都の政府と耐久力の一点で戦ったのであった。つまり、いま
た。しかし、そのとき、定雄の頭の中には、京都を見降ろし、一方に琵琶湖の景勝を見降ろすこの山上を選んだ伝教の満足が
地位と権威の高さを今さらに感じたが、絶えず京都と琵琶湖を眼下に踏みつけて生活した心理は、伝教以後の僧侶の粗暴
全く枯れ果ててどこが唐崎だか分らなかった。しかし、京都の近郊として一山を開くには、いかにもここは理想的な地だ
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に比叡山越しに大津に出てみようと定雄は思った。大津は彼が最初に学校へ行った土地でもあり、殊に六年を卒業
と見残した京都の名所を廻って、最後に比叡山越しに大津に出てみようと定雄は思った。大津は彼が最初に学校へ行っ
山に登った。定雄は比叡山へは小学校のときに大津から二度登った記憶があるが、京都からは初めてであった。千枝子
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から彼は子供を姉に預け、千枝子と二人で大阪と奈良へ行った。それをすますと見残した京都の名所を廻って、最後に
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三月下旬に京へ立った。定雄は妻の千枝子が東京以西は初めてなので、定雄の幼年期を過した土地を見せておく