悲しみの代価 / 横光利一
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「京都へ行つたのかと思うてゐた。」
彼は京都へ行つてみた。京都の市街を歩く群衆は東京の群衆よりも靜かで落ちついてゐる。彼
彼は京都へ行つてみた。京都の市街を歩く群衆は東京の群衆よりも靜
記憶になつておいでですか。それは、そのとき、京都の活動隊が場面をとりに來たときで、私はあなたが見物の
も愉快にすごしてみたかつた。彼は夕暮から京都へ出ていつた。
「お前あした京都へ行く?」と彼に訊いた。
翌日彼は醫者の處へ行く氣がなかつたがまた京都へ行つてみたかつた。停留所の方へ歩いて行くと、かん子
間もなく京都行きの電車が來た。彼女もそれに乘ることだと思つてゐた
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「大久保の方を廻るつて仰言つたわね。遲くなるわよ、きつと
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東京驛へ着いたとき、發車時刻まで間がなければよいがと思つた。
、歸國したときと同じやうに、何の躊躇もなく東京行きの列車に乘つた。彼は三島に逢つたなら、自分の總て
夜明けに彼は東京へ着いた。彼は眠らなかつたが、頭は病的に冴えてゐ
停留場の方へ歩き、三田行きの電車に乘つた。東京驛から汽車に乘つて了ふと、彼は急に疲れを感じて來
の状態にありたかつた。家の者には又東京が嫌ひになつたから歸つて來たと云つておいた。
「東京へはいつお歸りになりますの。」
全心に漲つて來た。彼は出來ることなら今から直ぐ東京の妻の傍へ歸りたかつた。彼は家へ歸つて寢床へ
は京都へ行つてみた。京都の市街を歩く群衆は東京の群衆よりも靜かで落ちついてゐる。彼はなるべく放心するやうにき
た以上、辰子に心を向けてはならないのだ。東京の家の方は、君らが二人そのままそこにゐてくれると都合
「東京。」
「近々に東京へ歸る。」と彼は云つた。
「もういい。お母さん、東京へ出て來ないかね。」
その翌日彼は東京へたつた。彼はまだ今暫く矢張り妻には逢ひたくはなかつたの