その木戸を通って / 山本周五郎
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つい数年まえの話ですが、江戸の者が一夜で加賀の金沢へいった、自分ではなにも知らず、気がついてみると
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「ほかにも大阪の者が知らぬまに長崎へいっているとか、いま座敷にいた
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「おまえはいつか、江戸のほうにあとくされはないと云ったな」と田原が訊いた。
行状を知っているから念を押して慥かめた、もしや江戸のほうに縁の切れてない女などがいはしないか、いるなら正直に
年、去年も石垣町の梅ノ井で酒宴があり、彼は江戸仕込みの蘊蓄のほどをみせて喝采を博した。今年は勘定奉行が交代し
この城下の者だが、吉塚助十郎とその妻のむらは江戸から伴れて来た。正四郎の父は岩井勘解由といって、信濃守景之の
に当り、父が選んで付けてよこした。したがって、江戸における正四郎の行状をよく知っているから、女が訪ねて来たと
でしょう」と彼は云った、「ことによると私が江戸にいたころの噂を知っていて、いたずら半分に縁組だけでも破談
から、父の勘解由と親しくつきあっている。そのため彼が江戸から来ると、父の依頼で監督者のような立場になった。城代家老の
のいやがらせでなくってどうしてこんなことが起こるんだ、江戸ならもうちっと気のきいた手を打つぜ、へっ、田舎者はすることまで間
むらは、娘にふさという仮の名を付けた。江戸で嫁にやった自分の娘の名であるが、たいそう気性もよく、嫁
吉塚が云った、「つい数年まえの話ですが、江戸の者が一夜で加賀の金沢へいった、自分ではなにも知らず、
「言葉は江戸のようですが」と吉塚は首をかしげた、「しかし武家では、多少
勘解由にはもう孫が一人あった。江戸にいる長男、幸二郎の子で鶴之助といい、もう三歳になったので
がっかりなさるでしょう、と云った。正四郎は首を振って、江戸には男の孫があるから、女の子のほうが却ってよろこぶだろう、と云った
ゆかは麻疹にかかったが、それも無事に済んだ。江戸の父からは「ゆかのようすを知らせろ」とうるさいほど云って来、母
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田原権右衛門の部屋へいった。田原は中老の筆頭で、松山という書役になにか口述していたが、はいって来た正四郎を
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、自分ではなにも知らず、気がついてみると金沢城下で、日を慥かめたところ昨夜の今朝だった、ということです」
年まえの話ですが、江戸の者が一夜で加賀の金沢へいった、自分ではなにも知らず、気がついてみると金沢
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「ほかにも大阪の者が知らぬまに長崎へいっているとか、いま座敷にいたと思った者が、その