ひとでなし / 山本周五郎
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なことがあっても、あいつならきっと役に立つし、大阪へ着いてからだって、急場を凌ぐもとでぐらいにはなるぜ」
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「十のときから江戸へ奉公に来てましたからね、十八の年に嫁にゆくんで水戸
旅切手は二枚、おれの分は女房伴れだぜ、江戸をぬけるためには女が必要だ、夫婦者なら関所も安心してとおれる、
野郎もあっしも悪いことをし尽しました、どうにも江戸にいられなくなって、上方へずらかろうということになったんです」
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と彼はふるえながら呟いた、「駕籠をひろうにしても、両国までゆかなくちゃあなるまいな」
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「そう、あんた水戸だったの」とおようが云った、「それにしては訛りが
てましたからね、十八の年に嫁にゆくんで水戸へ帰ったんですけれど、そんなわけで世帯を持ったのは五年そこそこ
もいなかった。この店をしまうので、おつねは水戸へ帰ることになり、おみつは浅草のほうに勤め口をみつけていた。
「おつねは水戸へ帰ったら髪結をするんですって」とおようが話していた、
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が話しこんでいた。すぐ向うに渡し場があり、対岸の浅草みよし町とのあいだを、二はいの渡し舟が往き来しており、乗る客や
のほうにいる遠い親類の家へ泊りにゆき、おみつは浅草の新しい店へ移っていったのである。康二郎は酔った眼で、
ので、おつねは水戸へ帰ることになり、おみつは浅草のほうに勤め口をみつけていた。それで、おつねは業平のほう
をまわったらしい、こっちの河岸もまっ暗だし、対岸の浅草のほうも灯はまばらで、遠くかすかに、夜廻りの拍子木の音
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が云った、「もう三年もまえのこったぜ、品川へあがった二つの死骸が、おれとおまえだと認められたことは
なったわ、泥まみれ、傷だらけになって、そうして品川の海へ死骸になってあがったのよ」
夏でしたっけ」とおようは続けて云った、「品川でお仕着を着た死躰が二つあがって、石川島から牢ぬけ
たうえ、腐るのを待って海へ放した、それが品川の浜へあがってあっしたち二人ということになったんだが、それから
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た、覚えていることが慥かなら、十七の年だ、浜町の河岸の石垣を直していたときで、私はそれをぼんやり眺めながら
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雲があるのだろうか、星も少ししか見えなかった。両国橋のほうへ向って歩きだし、舟渡しのところまで来ると、うしろから「もし