蝋人形 / 小川未明
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東京
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年の六月頃であった。ちょうど近所の家から今東京の親類の者が来ていてその知合の或る人形屋で丁稚が欲しい
月日は夢の中に過ぎた。清吉が東京へ出てから五年目の春の暮である。この灰色の、海
の予想に違わず前垂姿のかいがいしい様はどう見ても東京児である。しかし無口で、温順な気質は少しも昔とは異らなかっ
「清吉、お前は又東京へ行くんだろうね、親方様にはお変りはないかえ。」
でもなって涼気が立てば脚気も癒るから。夏は東京は暑いだろうな、そんなに急いで行くにや及ばん、涼しくなってから
は人形の形を造って見るが、何うも自分がかつて東京にいて見たような西洋の蝋人形のようにはうまく行かなかった。
或日のこと彼はしみじみと独り言のように、「東京へ帰らんけれやならんのか、もう海も今日限りで見納めだなア。
しまった。残った二つのうちの一つは清吉が東京への土産にするといって持って行った。後の一つはどう