大阪 神楽坂

鐘師匠は艶聞に富む。若い頃、大阪へ修業に行っている間に先方の師匠の娘さんに思いつかれたのも

辞退して帰って来た。何と言っても義太夫は大阪だ。その頃の相弟子が出世して、素晴らしい生活をしている。彼方は

月謝が五百円上るの六百円上るのという。偶※大阪から帰った同業が訪ねて来て、そんな噂をして行った後、

「いゝえ。何てこともあるからでしょう？　あなたは大阪の師匠の娘さんが未だ忘れられないのよ」

「でも、あのまゝ大阪にいたらなんて言われると、私、苦労の甲斐がありませんからね」

「大阪のことは言わないが、おれは未だ年寄じゃない積りだ。それ丈けは立派

儲かるようにという御幣も充分利いている。鐙太夫は大阪の文楽座から逃げて来た。銀さんよりも一つ若い。

から、責任を持って下さらなければ困りますよ。師匠は神楽坂あたりで若いのに煽てられるんじゃないでしょうか？」

「神楽坂へは芸者衆へお稽古をつけに行くのよ。お稽古は昼間ですわ。芸者