丸の内 赤坂 祇園 長者ヶ崎 関西 箱根 箱根町 葉山 鎌倉 小石川 小石川の植物園 大手町 銀座 神保町 新橋 浜町 東京 京橋

一刻も早く、彼の承諾をききたい。そして、一緒に丸の内から銀座の方を散歩しよう。彼女も、銀座を歩くとき、街の灯に

「欲ばっている！　再婚で子供があって、その上赤坂や新橋といろいろうわさを立てられているくせに、まだ処女を要求している

学生時代に、友人に連れられて祇園のお茶屋に行ったときなど、彼はそこに来た二十四五になる

つれ立って散歩に出た。御用邸の前を通って、遠く長者ヶ崎まで歩いた。だが、あの岬を廻り、大崩れの海岸を一目見ると

はまだいなかった。倭文子が、実父が死んだために関西の田舎から、伯父の家にたよって来たのは、二三年来の事

村川と倭文子とが、一緒に箱根の芦の湖に身を投じたのは、葉山を去ってから四日目

を引き取らないわけには行かなかった。家の執事が、箱根へ急行することになった。

京子の女らしい心持に、うごかされたと見え、京子が箱根へ行くことをゆるした。

箱根町へ入って、××ホテルの玄関へついたとき、一行はしずかに二階

倭文子は、葉山が初めてである。駿河湾を遠くへだててたなびいている灰色の雲の間に、

葉山へ来てから、四五日目の夕方、それは土曜日に当っていた。

葉山のどこに行っているのか、彼には見当がつかなかった。川辺家

つかなかった。川辺家の別荘は、大磯にあって、葉山ではなかった。彼は美智子や宗三にそれとなく聞いてみた。だ

実際女中達も、京子が葉山のどこに滞在しているのか知っていないらしかった。ただ夫人だけは

、はげしい飢渇のように彼の心をおそった。彼は葉山へ行って、軒ごとに倭文子のありかを探したいとさえ思った。こうなれ

だが、京子が葉山のどこに滞在しているか、まだわからなかった。すると土曜日の午後三

「葉山はどちらにおられるのでしょう。」

「京子さん、僕はあなたに遠慮するために、葉山へ来ているのではありませんよ。」

「あなたも、男らしくもなく、葉山へなどおいでになりましたね。倭文子さんが、あなたをどう思っている

「でなければ、僕はわざわざ葉山まで伺ったのが……」

逗子から、自動車で、またたく間に葉山へ着いた。

一緒に箱根の芦の湖に身を投じたのは、葉山を去ってから四日目の深夜であった。

「いいえ。ただちょっと鎌倉の友人を尋ねて来たついでに。」

「じゃ、これから鎌倉へいらっしゃるのでしょう。」

そのあくる日、日曜の午後四時頃、京子は急に、鎌倉まで買物に行くといって、自動車を呼んだ。京子が、支度をして

「ええ。鎌倉まで、いらっしゃるといってそのまま東京へお帰りになったのです。」

小石川の家へ帰る勇気が、どうしても出て来ないのだ。帰りたい

「小石川の五百三十六番だ。川辺という家なんだ。そこへ、電話をかけて

村川に頼まれたウェイトレスは、気軽に小石川の五百三十六番を呼び出した。

「小石川の五百番だよ。」

「小石川です。」

に送らせて下さいね、いいでしょう。ねぇ。運転手さん、小石川へ。」

「うそよ、運転手さん、小石川へ！」

「小石川へね。ね、運転手さん、わたしのいう通りねぇ、ご祝儀うんと上げるわ。」

「小石川は、どちらです。」

「小石川はどちら？」

樹木の多い庭園を昼のように照していた。小石川の植物園と同じ丘陵の上にある庭は大樹が多かった。それをそのままに

は会社を出た。が、足がいつものように、大手町の停留場に向かないのだ。

もないらしい車は、自動車道としては一番障害の少い大手町から一つ橋への道をまたたく間に疾駆して、神保町から小石川白山

だが、京子が大手町で降り、今井商事株式会社のあるビルディングに入り、そのエレベーターで胸を躍らせ

帰る時間を、少しでも延ばしたかったのだ。京橋から銀座へ出た。そのとき、ふと彼はある手段を考えついた。

、一緒に丸の内から銀座の方を散歩しよう。彼女も、銀座を歩くとき、街の灯に、かがやく青春をかざして歩く恋人同士を見

早く、彼の承諾をききたい。そして、一緒に丸の内から銀座の方を散歩しよう。彼女も、銀座を歩くとき、街の灯に、

「ねぇ。お母さま。わたし銀座まで行ってもいい。」

身体にふりそそぐのを感じながら、彼女は村川と一緒に、銀座の宵を散歩する幸福を、いろいろに想像していた。

「いいえ。ちょっと銀座へ出まして。」

送りいたしましょう。今、私も帰るところですから、自動車で銀座からお宅へ、お送りしましょう。」

辺のカフェでお茶でも飲んで行きましょうか。折角銀座まで来たのですから。」

「そのうちは、心細いわ。ねぇ、わたしの家の電話銀座の五五五よ。あなたお暇のときかけて下さいな。わたし、カフェでも

「ねぇ、銀座の五五五よ。覚えいいでしょう。わたし、昼間だったら、いつでも出られる

「それだのに、あくる日はすましているのよ。昼間銀座の方へおいでになる用事があったら社の方へお寄りになり

から一つ橋への道をまたたく間に疾駆して、神保町から小石川白山へと一文字に走った。

ている！　再婚で子供があって、その上赤坂や新橋といろいろうわさを立てられているくせに、まだ処女を要求している！

「今あすこに新橋の芸妓が三人いたの。ご存じですか。」

「この人が、今新橋第一の美人……」

そこは、地震後浜町から築地へ越して来た有名な日本料理の家だった。

「あのお嬢さま。あの東京のこちらのご主人から、お電話でございますの。」

心の傷は、五月の太陽と海と風と、東京からの距離とのために、ようやく痛みが薄らぎ始めていた。

はあなた方に一つ麻雀をお教えしようと思って、東京から道具を持って来たのです。」

「お嬢さま。あの東京からお人がお見えになりました。」

「え。東京からのお客ですって。まあだれ！」

買物の都合で、東京まで帰り、あすすぐ来るというのは、何でもない事かもしれ

さんは、どうしたんだろう。今井さんも、一緒に東京へ帰ったのかな。」

いつも、突飛な思いがけないことをする京子だが、急に東京に帰るということが、いかにもおかしいと思った。殊に自分と宮田と

「もう、東京へ帰る汽車は、ございませんでしょうか。」

ここにとどまっても、東京に帰っても、どちらにしても、宮田との気づまりな息ぐるしい接触を

「急に東京へお帰りになりましたの。」

「京子さんは、どうして東京へ帰ったのです。」

「ええ。鎌倉まで、いらっしゃるといってそのまま東京へお帰りになったのです。」

東京の家へ帰っていた京子は、翌朝早くから女中に起された。

「今朝早くからでございます。東京へお帰りになっているのでございませんか。」

村川のために、某医学博士が、東京から呼びよせられることになった。

家へ帰る時間を、少しでも延ばしたかったのだ。京橋から銀座へ出た。そのとき、ふと彼はある手段を考えついた。