いしが奢る / 山本周五郎
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戻って来たいしは銚子を二つ持っていた。その一つを自分の脇に置き、もう一
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庵の者はおかねの先達で、内海の対岸にある籠神社へ、一夜お籠りにでかけたのだという、いしのほかには下男の
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情報のように云われた。そのためであろう、保馬が亀岡の宿所にはいると、旅装を解くよりも早く、いろいろな客が挨拶に来
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た、「あれは青木重右衛門の養女ですが、もとは加賀藩の浪人の遺児だそうで、外島と結婚する約束ができている……どう
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日、まだ降り惜しんでいる梅雨のなかを、本信保馬が江戸から到着した。
来て半年ばかり経ってからですが、それでいちどは江戸へ帰ろうと思ったんですがね、外島がどうしても放さないし、
であった、「こんなことを云うと怒られるでしょうね、江戸ではちょっと羽根を伸ばしてもすぐ眼につくもんですから、……どうか
。そしてじっさい、かれらは不即不離の態度をとった。江戸の家老の子であり、美貌の俊才であり、また城代家老の女婿になる
あり、かれらの独占株を開放させるため、ひそかに江戸の重臣へはたらきかけていた。このことは三人の御用商人にもだいたいわかっ
がいるし、本信さまは御城代のお嬢さまを迎えて、江戸へお帰りなさるのですものね」
「この分は返さなければならないんだからな、江戸でなくって幸いだよ、江戸だったら破産してしまうぜ」
ならないんだからな、江戸でなくって幸いだよ、江戸だったら破産してしまうぜ」
「それではもう」といしが云った、「江戸へお帰りになりますのね」
」と彼は意地の悪い口ぶりで云った、「せっかく江戸から来たのに、手ぶらで帰るのはまのぬけたはなしだ、おいし
堀とは仕事を進めていた。九月になると江戸から、城代家老に宛てて墨付の密書が届き、それによって、諸役所
ちかく出る暇がなかった、そのあいだに準備もほぼととのい、江戸から知らせのあるのを待つばかりになった。正式の勘定吟味役が江戸から来る
のあるのを待つばかりになった。正式の勘定吟味役が江戸から来るのである、むろん初めからの予定であるが、それが宮津へ着く
こともわかっていたが、宮津へ着くまえに、(江戸の父から)求婚の手紙が届くようになっていた。勘定吟味役かも
多忙な日が続いた。保馬は江戸へ督促の急使をやり、重職と会った。町奉行に捕えてある暴徒たちの
そう確信することができた。慥かにそのとおりだった、江戸から勘定吟味役が来たのは、その月の下旬のことであるが、持っ
「もう四五日すると江戸へ帰る」と保馬が云った、「はなしは聞いたろうね」
「本当に江戸へゆけますのね」