本郷 吾妻橋 雷門 鎌倉 富士山 横浜 上野公園 浅草 向島 東京 隅田川

た表情になって、車の方向を変えた。行先は本郷の大学病院わきの、ある医療器械店であった。

風呂を焚かせ、身だしなみをして、洋服に着かえると、吾妻橋の袂から自動車を傭って、その時芙蓉の出勤していた、Ｓ劇場

へと車を走らせた。三十分もかかって、やっと吾妻橋へ出たが、その時また、彼自身のやっていることに不審を抱い

ないが、一寸使いに行って来ておくれ。浅草の雷門の所に、○○という洋酒屋があるだろう。あすこへ行ってね、

んだよ」と弁解したが、これは、婆やが雷門まで往復する間に、芙蓉の死骸を、土蔵の二階へ運ぶ為でも

月末で、芙蓉の身体に隙があるから、三人で鎌倉へ出かけようと、約束をして別れたので、柾木はその日落合う場所の

日は朝から清々しく晴れ渡って、高台の窓からは、富士山の頭が、ハッキリ眺められる様な日和であったが、夜に入っても

二階に畳を敷きつめて、愛蔵の異端の古書や、横浜の古道具屋で手に入れた、等身大の木彫の仏像や、数個の青ざめ

して、驚く池内を誘って宮城前の広場から、上野公園を一順して見せたこともあった。池内は「君に似合わしから

安待合や、貧民窟がかたまってい、河一つ越せば浅草公園という盛り場をひかえているにも拘らず、思いもかけぬ所に

奇妙だけれど、彼は多くの夜、河一つ隔てた浅草公園に足を向けたものである。だが、人嫌いであったからこそ

気持の好きな、柾木の様な種類の厭人病者は、浅草公園の群集と同じに汽車や電車の中の群集、劇場の群集などを

お前済まないが、一寸使いに行って来ておくれ。浅草の雷門の所に、○○という洋酒屋があるだろう。あすこへ行っ

その郊外の家というのは、向島の吾妻橋から少し上流のＫという町にあった。そこは近くに安

の注意を惹かないで、しかも非常な速度で自由自在に、東京中を放浪して歩くことが出来るのだ。君も知っている様に

選んだのは、費用を省く意味もあったが、当時東京市中の賃自動車には、過半フォードが使用されていたので

な陰気者の柾木愛造が、突然、新青年の様に、隅田川の上流の、とある自動車学校に入学して、毎日欠かさずそこへ通って