九州 福岡 東京

この事件に関する野口君と僕の交渉は僕が九州で某県庁の属官を勤めていた頃から始まる。野口君は裏日本の

時代からの同窓で極く親しかった。それだから野口君が九州まで訪ねて来ても然う驚く筈はないのだが、突然だったし、

側と認めないなら、もう宜い。君を見損って、九州くんだりまで来たんだから」

して地方廻りを始めた。野口君も方々歩いた。九州以来、十年間が夢のように過ぎ去った。しかし物事は予定通りに運ばない

「知っている。福岡で一緒だった。あの人が今頃漸く学務部長だと思うと、此方

「福岡で本官だったのかい？」

「東京へ帰る途中だ」

予定になっていたから、好い幸いに案内した。東京の役者が来て、忠臣蔵をやっていた。

ている。野口君の場合は正にそれだった。式を東京で挙げたけれど、僕は生憎チブスに罹って入院していた。しかし

することはなかったが、僕はいつも野口君の任地と東京の間に介在していたから、野口君は上京の帰途に必ず寄っ

も言わなかった。そのまゝ三年過ぎた。野口君は東京からの帰りを二度寄った。二度目の時だった。