伊良湖岬 / 田山花袋 田山録弥
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帰りは私達は、畠村から汽船で、尾張の知多半島へと向つた。
、海の雄大さとを見ることは出来なかつた。知多半島の突出してゐる伊勢湾には波がなかつた。
知多半島には、源義朝の長田忠致に殺された跡が残つてゐる。それ
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佐久島は地が赤ちやけてゐて、やゝ殺風景であつたけれども、篠島
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豊橋から田原に行く間は、さう大してすぐれたところもなかつたけれども――馬上
は比較的高い山が海に突出して聳えてゐて、豊橋から通つて来るペンキ塗の青い白い小さな汽船のその下を縫つて通つ
こゝからは、尾張の知多半島と、豊橋の豊川の河口とに向つて、日夕汽船が発着した。私は渥美
は渥美半島のすべてを探りたいと思つたために、わざわざ豊橋から歩いて来たけれども、旅客はその豊川の河口から、ぢかに衣
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に、林を隔て、山を隔て、海を隔てゝ、伊勢の遠い碧い山脈がそれと指点された。
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怒濤の中にとはに聳えて、その向うに菅島、答志島の重り合つてゐる眺望――その眺望は、その風景は、依然とし
断片などが絶えず打寄せられた。そこからは、神島、答志島を隔てゝ、志摩の安乗の灯台の火光をも望むことが出来れば、沖の
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つてゐる。それに、西海岸にある大野の海水浴場は、名古屋の人達の常に行つて遊ぶところで、たしか今では電車が通つ
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人家の点在してゐるところへと出て行つた。概して渥美半島は、さう大して高い山もなかつたけれども、それでも何処か辺僻な
とに向つて、日夕汽船が発着した。私は渥美半島のすべてを探りたいと思つたために、わざわざ豊橋から歩いて来たけれども
知多半島の師崎と渥美半島の伊良湖岬とは、相対して、衣ヶ浦の門戸を成してゐるやう
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た大きな眺めを持つたシインを発見したであらうか。伊豆の海岸か、否。駿河の海岸か、否。紀伊の海岸か、否。
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ところどころに点綴せられる人家すらもなかつた。さびしい、さびしい、北海道にでも行つたやうな荒凉とした路である。
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伊良湖岬
長い淹留をしたらしかつた。『鷹一つ見つけてうれし伊良湖岬』この句が杜国に逢つた喜悦を詠じたものだと言ふのは、それは
、それは何うだか知れないけれども、兎に角、こゝから伊良湖岬の絶端まで、翁の足跡が及んでゐることを考へると、私は言ふ
畠から伊良湖岬までは、全く荒凉とした二里半の話である。そこには
伊良湖岬は、天下の絶勝と言つても、決して溢美ではなかつた。其他に
知多半島の師崎と渥美半島の伊良湖岬とは、相対して、衣ヶ浦の門戸を成してゐるやうな形に
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伊勢湾、火のやうな雲の夕毎に渦きあがる朝熊山、砂山を越せば、美しい恋路ヶ浦、神島の一青螺は怒濤の中にと
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られた。そこからは、神島、答志島を隔てゝ、志摩の安乗の灯台の火光をも望むことが出来れば、沖の汽船の烟の静か