二百十日 / 夏目漱石
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自然木の彎曲した一端に、鳴海絞りの兵児帯が、薩摩の強弓に新しく張った弦のごとくぴんと薄を押し分けて、先は谷の
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「伊賀の水月さ」と碌さんは、躊躇なく答えた。
「伊賀の水月? 伊賀の水月た何だい」
「伊賀の水月? 伊賀の水月た何だい」
「伊賀の水月を知らないのかい」
「ないよ。伊賀の水月は読んだが、ディッキンスは読まない」
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の中へ来て慷慨したって始まらないさ。それより早く阿蘇へ登って噴火口から、赤い岩が飛び出すところでも見るさ。――しかし
「阿蘇の山の中に御馳走があるはずがないよ。だからこの際、ともかくも
「しかし僕の御蔭で天地の壮観たる阿蘇の噴火口を見る事ができるだろう」
「可愛想に。一人だって阿蘇ぐらい登れるよ」
輪、夕暮の秋を淋しく咲いている。見上げる向では阿蘇の山がごううごううと遠くながら鳴っている。
「阿蘇の噴火口を観て……」
「なにこれでいいよ。――姉さん、ここから、阿蘇まで何里あるかい」と圭さんが玉子に関係のない方面へ出て
「ここが阿蘇なら、あした六時に起きるがものはない。もう二三日逗留して、すぐ
「じゃ阿蘇の御宮まではどのくらいあるかい」
そう云う、ももんがあを十把一とからげにして、阿蘇の噴火口から真逆様に地獄の下へ落しちまったら」
浚われたものか、うんとも、すんとも返事がない。阿蘇の御山は割れるばかりにごううと鳴る。
「阿蘇へまだ行く気かい」
「無論さ、阿蘇へ行くつもりで、出掛けたんだもの。行かない訳には行かない」
君、いよいよ熊本へ帰るのかい。せっかくここまで来て阿蘇へ上らないのはつまらないじゃないか」
「しかし阿蘇へ登りに来たんだから、登らないで帰っちゃあ済まない」
「そこでともかくも阿蘇へ登ろう」
「うん、ともかくも阿蘇へ登るがよかろう」
二人の頭の上では二百十一日の阿蘇が轟々と百年の不平を限りなき碧空に吐き出している。
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から出て、そうして宿を出て、十一時に阿蘇神社へ参詣して、十二時から登るのだ」
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大に人を愚弄したものだ。ここはどこだって、阿蘇町さ。しかもともかくもの饂飩を強いられた三軒置いて隣の馬車宿だあね。
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「おおかた熊本でござりまっしょ」
、熊本製の恵比寿か、なかなか旨いや。君どうだ、熊本製の恵比寿は」
「ふん、熊本製の恵比寿か、なかなか旨いや。君どうだ、熊本製の恵比寿は」
に起きるがものはない。もう二三日逗留して、すぐ熊本へ引き返そうじゃないか」と碌さんがすぐ云う。
、もうずっと、後ろになってしまった。すると我々は熊本の方へ二三里近付いた訳かね」
「どこって熊本さ」
「熊本通いは八時と一時に出ますたい」
「君、いよいよ熊本へ帰るのかい。せっかくここまで来て阿蘇へ上らないのはつまらない
「また主義か。窮屈な主義だね。じゃ一度熊本へ帰ってまた出直してくるさ」
「曖昧にさ。そこで君は僕といっしょに熊本へ帰らなくっちゃあ、ならないと云う訳さ」
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「出るさ、東京の真中でも出る」
「東京の真中でも出る事は出るが、感じが違うよ。こう云う山の
「そんなに惜しけりゃ、あれを東京へ連れて行って、仕込んで見るがいい」
「うん。やっぱり東京製と同じようだ。――おい、姉さん、恵比寿はいいが、この玉子
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「ビールはござりませんばってん、恵比寿ならござります」
おい君ビールでない恵比寿があるって云うんだが、その恵比寿でも飲んで見るかね」
「ハハハハいよいよ妙になって来た。おい君ビールでない恵比寿があるって云うんだが、その恵比寿でも飲んで見るかね」
「うん、飲んでもいい。――その恵比寿はやっぱり罎に這入ってるんだろうね、姉さん」と圭さんはこの時ようやく
「そら恵比寿が来た。この恵比寿がビールでないんだから面白い。さあ一杯飲むかい」と碌さんが
「そら恵比寿が来た。この恵比寿がビールでないんだから面白い。さあ一杯飲むか
あるから、――さあ食うがいい。――姉さん、この恵比寿はどこでできるんだね」
の恵比寿か、なかなか旨いや。君どうだ、熊本製の恵比寿は」
「ふん、熊本製の恵比寿か、なかなか旨いや。君どうだ、熊本製の恵比寿は」
。やっぱり東京製と同じようだ。――おい、姉さん、恵比寿はいいが、この玉子は生だぜ」と玉子を割った圭さんは
「それじゃまたビールでない恵比寿でも飲むさ」