趣味の遺伝 / 夏目漱石
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でも白山方面のものに相違ない。白山方面とすれば本郷の郵便局へ来んとも限らん。しかし白山だって広い。名前も分らんものを
もその論拠が少々薄弱になる。これは両人がただ一度本郷の郵便局で出合った事にして置かんと不都合だ。浩さんは徳川家
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が常よりは妍やかに余が瞳を照らした。箱根の大地獄で二八余りの西洋人に遇った事がある。その折は十
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を掠めて去った時は、この一片に誘われて満洲の大野を蔽う大戦争の光景がありありと脳裏に描出せられた。
の容赦なく握手の礼を施こしている。出征中に満洲で覚えたのであろう。
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ないがその紀念の遺髪は遥かの海を渡って駒込の寂光院に埋葬された。ここへ行って御参りをしてきようと西片町の吾家
快い感じを添える。先の斜めに減った杖を振り廻しながら寂光院と大師流に古い紺青で彫りつけた額を眺めて門を這入ると、精舎は
つけたのではない。聞くところによるとこの界隈で寂光院のばけ銀杏と云えば誰も知らぬ者はないそうだ。しかし何が化け
化銀杏が黄金の雲を凝らしている。その隣には寂光院の屋根瓦が同じくこの蒼穹の一部を横に劃して、何十万枚重なったもの
と際目立って見えたと云う訳でもない。余が寂光院の門を潜って得た情緒は、浮世を歩む年齢が逆行して父母未生
山寺のカッポレと全然同格である。マクベスの門番が解けたら寂光院の美人も解けるはずだ。
である。その一人が――最も美くしきその一人が寂光院の墓場の中に立った。浮かない、古臭い、沈静な四顧の景物の
か。これも諷語だからだ。マクベスの門番が怖しければ寂光院のこの女も淋しくなくてはならん。
いきなり石段を一股に飛び下りて化銀杏の落葉を蹴散らして寂光院の門を出て先ず左の方を見た。いない。右を向いた
な」と云ったが、内心は少々気味が悪かった。寂光院の花筒に挿んであるのは正にこの種のこの色の菊である。
消えかかっていた。がその人の顔は? ああ寂光院だと気が着いた頃はもう五六間先へ行っている。ここだ下品
四方を見廻したが生憎一輌もおらん。そのうちに寂光院は姿も見えないくらい遥かあなたに馳け抜ける。もう駄目だ。気狂と思わ
ん事なら仕方がない。それは先ずよしとして元来寂光院がこの女なのか、あるいはあれは全く別物で、浩さんの郵便局で逢っ
だろう。そうして白い小さい菊でもあげてくれるだろう。寂光院は閑静な所だ」とある。その次に「強い風だ。いよいよこれから
ならん。学校の退けるのを待ちかねて、その足で寂光院へ来て見たが、女の姿は見えない。昨日の菊が鮮やかに
そうはさせぬとまた一枚ほど開けると、今度は寂光院が襲って来る。ようやくそれを追払って五六枚無難に通過したかと思う
まで余が鑑定の通りだ。こんな愉快な事はない。寂光院はこの小野田の令嬢に違ない。自分ながらかくまで機敏な才子とは今まで思わ
、その感慨から浩さんの事を追想して、それから寂光院の不思議な現象に逢ってその現象が学問上から考えて相当の説明がつく
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っ子である。聞くところによれば浩さんの御父さんも江戸で生れて江戸で死んだそうだ。するとこれも江戸っ子である。御爺
聞くところによれば浩さんの御父さんも江戸で生れて江戸で死んだそうだ。するとこれも江戸っ子である。御爺さんも御爺
でないと云うので、帯刀は国詰になる、河上は江戸に残ると云う取り計をわしのおやじがやったのじゃ。河上が江戸で
云う取り計をわしのおやじがやったのじゃ。河上が江戸で金を使ったのも全くそんなこんなで残念を晴らすためだろう。それでこの事
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耳の御蔭で目隠しの難を喰い止めているのもある。仙台平を窮屈そうに穿いて七子の紋付を人の着物のようにいじろじろ
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怖い事だと例の通り空想に耽りながらいつしか新橋へ来た。見ると停車場前の広場はいっぱいの人で凱旋門を通して
空気をあまり吸った事のない人間はわざわざ歓迎のために新橋までくる折もあるまい、ちょうど幸だ見て行こうと了見を定めた。
に紫の旗が一流れ颯となびくのが見えた。新橋へ曲る角の三階の宿屋の窓から藤鼠の着物をきた女が
と鋲を打った兵隊靴が入り乱れ、もつれ合って、うねりくねって新橋の方へ遠かって行く。余は浩さんの事を思い出して悵然と草履
にあたりを見廻している。ほかのもののように足早に新橋の方へ立ち去る景色もない。何を探がしているのだろう、もし
もし浩さんが無事に戦地から帰ってきて御母さんが新橋へ出迎えに来られたとすれば、やはりあの婆さんのようにぶら下がるか
。しかし浩さんはまだ坑から上って来ない。図らず新橋へ行って色の黒い将軍を見、色の黒い軍曹を見、背の
訪問は見合せる事にしたが、昨日の新橋事件を思い出すと、どうも浩さんの事が気に掛ってならない。
、こんな小説めいた事を長々しくかいているひまがない。新橋で軍隊の歓迎を見て、その感慨から浩さんの事を追想して
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もない。何を探がしているのだろう、もしや東京のものでなくて様子が分らんのなら教えて遣りたいと思ってなお
ある。紀州の藩士は何百人あるか知らないが現今東京に出ている者はそんなに沢山あるはずがない。ことにあの女のよう
御父さんも江戸っ子である。すると浩さんの一家は代々東京で暮らしたようであるがその実町人でもなければ幕臣でもない。
の方から調べてかかる。浩さんは東京で生れたから東京っ子である。聞くところによれば浩さんの御父さんも江戸で生れて
ないから、先ず男の方から調べてかかる。浩さんは東京で生れたから東京っ子である。聞くところによれば浩さんの御父さん
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て来ないがその紀念の遺髪は遥かの海を渡って駒込の寂光院に埋葬された。ここへ行って御参りをしてきようと
して、その結果は朋友に冷かされたり、屑屋流に駒込近傍を徘徊したのである。しかしこんな問題は当人の支配権以外に立つ
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の後姿を見送って不思議な対照だと考えた。昔し住吉の祠で芸者を見た事がある。その時は時雨の中に立ち尽す
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銀杏の精が幹から抜け出したと思われるくらい淋しかった。上野の音楽会でなければ釣り合わぬ服装をして、帝国ホテルの夜会にでも招待
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くだらぬ事を考えながら柳町の橋の上まで来ると、水道橋の方から一輌の人力車が勇ましく白山の方へ馳け抜ける。車が
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な爺さんだ。白い髯を細長く垂れて、黒紋付に八王子平で控えている。「やあ、あなたが、何の御友達で」と