富士山 本郷 高崎 根津権現 関西 軽井沢 江戸 善光寺 追分 京都 甲府 東京 駒込 四ッ谷 市ヶ谷 日本橋 千住 巣鴨 浅草 新橋 伊勢崎

中にも駿河町という所に描いてある越後屋の暖簾と富士山とが、彼の記憶を今代表する焼点となった。

ずに、ただ傘を差しただけで、何時もの通りを本郷の方へ例刻に歩いて行った。すると車屋の少しさきで思い懸けない

しばらくその柴野という士官について話し合った。彼が今高崎にいない事や、もっと遠くの西の方へ転任してから幾年目

さきで思い懸けない人にはたりと出会った。その人は根津権現の裏門の坂を上って、彼と反対に北へ向いて歩いて来た

て細君の父に予約された位地というのは、関西にある或私立の鉄道会社の社長であった。会社の株の大部分を一人で

、段々方々食って歩いて見たが。健ちゃん、一遍軽井沢で蕎麦を食って御覧なさい、騙されたと思って。汽車の停ってるうち

ね。私ゃ大好きだ。なんなら貸して上げましょうか。なにしろ江戸といった昔の日本橋や桜田がすっかり分るんだからね」

「それよか、善光寺の境内に元祖藤八拳指南所という看板が懸っていたには驚ろいたね

有った人にありがちな落付のない態度で、千駄木から追分へ出る通りを日に二返ずつ規則のように往来した。

「健ちゃんはたしか京都へ行った事がありますね。彼所に、ちんちらでんき皿持てこ汁

凡てそうした顛末を、飽きるほど委しく述べた中に、甲府とかにいる親類の裁判官が、月々彼女に金を送ってくれるので

から帰って来て駒込の奥に世帯を持ったのは東京を出てから何年目になるだろう。彼は故郷の土を踏む珍らし

昔に切れていたし、その上結婚地が故郷の東京でなかったので、細君の方ではじかにその人を知るはずが

の仕事の方が彼には大事に見えた。それから東京へ帰って以後既に三、四回彼らと顔を合せたという記憶

吃驚したような声を出した。姉は無教育な東京ものによく見るわざとらしい仰山な表情をしたがる女であった。

ている健三には、やはり金銭上の問題で、自分が東京を去ったあとも、なお多少の交際が二人の間に持続されて

世界から独り脱け出してしまった。そうして脱け出したまま永く東京の地を踏まなかった。彼は今再びその中へ後戻りをして、

。その父のまだ達者でいるずっと前から、彼はもう東京にいなかった。彼は親の死目にさえ会わなかった。こんな書付が

健三の兄は小役人であった。彼は東京の真中にある或大きな局へ勤めていた。その宏壮な建物のなか

、健三はよくこんな言葉を彼の口から聞かされた。東京を離れている時などは、わざわざ手紙で依頼して来た事も一

結婚の儀式について全くの無方針であった。もともと東京へ帰ってから貰うという約束があったので、媒酌人もその地に

東京からわざわざ彼女を伴れて来た細君の父は、娘に振袖を着せながら

その時彼はこの手紙を東京にいる兄の許に送った。勤先へこんなものを度々寄こされて

、既に金の必要を感じた。久しぶりにわが生れ故郷の東京に新らしい世帯を持つ事になった彼の懐中には一片の銀貨さえ

こんな具合にして漸と東京に落付いた健三は、物質的に見た自分の、如何にも貧弱なの

養子の商売は酒屋であった。店は東京のうちでも随分繁華な所にあった。どの位な程度の活計を

もない新開地のような汚ない、町の中へ入った。東京で生れた彼は方角の上において、自分の今踏んでいる場所

健三が遠い所から帰って来て駒込の奥に世帯を持ったのは東京を出てから何年目になる

という気が次第に強くなったのとで、それなり駒込へ帰った。その晩はまた翌日の仕事に忙殺されなければならなかっ

も二もなく承知した。細君はまた子供を連れて駒込へ帰って来た。しかし彼女の態度は里へ行く前と毫も違って

父はさほど困っているようには見えなかった。彼が駒込の奥に住居を構えた当座、彼の新宅を訪ねた父は、彼

双方とも、一廻りも上であった。この夫がもと四ッ谷の区役所へ勤めた縁故で、彼が其所をやめた今日でも、

思い立ったように姉の宅へ出掛けた。姉の宅は四ッ谷の津の守坂の横で、大通りから一町ばかり奥へ引込んだ所に

彼はその日無沙汰見舞かたがた市ヶ谷の薬王寺前にいる兄の宅へも寄って、島田の事を訊いて

細君の里は小石川台町で、健三の兄の家は市ヶ谷薬王寺前だから、細君の訪問は大した迂回でもなかった。

なんなら貸して上げましょうか。なにしろ江戸といった昔の日本橋や桜田がすっかり分るんだからね」

驚ろいた養父母はすぐ彼を千住の名倉へ伴れて行って出来るだけの治療を加えた。しかし強く痛められた

巣鴨の植木屋の娘とかいう下女は、彼のために二、三の盆栽

「五円？――五円は随分好い価ですね。浅草の黒船町に古くから私の知ってる袋物屋があるが、彼所ならもっとずっと

健三が外国から帰った時、人に伴れられて彼を新橋に迎えたこの娘は、久しぶりに父の顔を見て、もっと好い御

遂に一匹の伊勢崎銘仙を抱えて店を出た。その伊勢崎銘仙という名前さえ彼はそれまでついぞ聞いた事がなかった。

と着物を拵えるべく勧められた彼は、遂に一匹の伊勢崎銘仙を抱えて店を出た。その伊勢崎銘仙という名前さえ彼はそれ

人の手に渡した。彼はまたぴかぴかする一匹の伊勢崎銘仙を買うのに十円余りを費やした。友達から受取った原稿料がこう