正午の殺人 / 坂口安吾

正午の殺人のword cloud

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神田

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毎日同じ時間にFまで日参しなければならぬ。駅から神田の家までは十分かかった。

文作は電車を降りて溜息をもらした。流行作家神田兵太郎が文作の新聞に連載小説を書きはじめてから百回ぐらいになる。

「どうやら、あの人も神田通いだな」

に突当ると神社がある。そこから丘へ登りつめると、神田兵太郎の家である。近所には他に一軒もないという不便な

「神田さんへいらッしゃるんでしょう」

「神田さんはここを曲って丘の上ですよ」

「おどろいたなア。神田通いの人種の中にあんな可愛い子がいるのかねえ。まさにミス・ニッポン

あるいはその人かも知れない。流行作家といっても、神田兵太郎は著書が何十万と売れる流行作家で、毎月たくさん書きまくる流行作家で

神田通いの婦人ジャーナリストの中に安川久子という美貌の雑誌記者がいることは

「神田兵太郎もワケの分らない先生さ。性的不能者という話もあれば、

あとでそれをやることが多いので、文作も何度か神田の暴れているのを見たことがある。六十とは思われない若々しい

がいくつか附属しているだけである。当年六十歳の神田兵太郎は数年来唐手に凝っている。仕事の合間にこの大広間で

神田邸のベルを鳴らすと、毛利アケミさんが現れて、大広間へ通してくれ

を下げていたのであるが、そのうちに文士の神田兵太郎と同棲するに至った。

、ジャーナリストも一時は迷ったものである。しかし、結局、神田が不能者であり、男色であるために、女体の最も純粋な鑑賞家

不能者だの男色だのと噂のあった神田がアケミさんと同棲するに至ったから、ジャーナリストも一時は迷ったもので

ジャージャー流れていた水の音がようやく止ったのは、神田がズッとシャワーを浴びていたのであろう。

神田が浴室で怒鳴っている。ハーイ、とアケミさんが浴室へ駈けこんでいった

のだろう。神田は口笛を吹きながら寝室へ駈けこんだらしい。神田を寝室へ送っておいて、アケミさんだけ出てきた。

アケミさんだ。タオルでくるんでやっているのだろう。神田は口笛を吹きながら寝室へ駈けこんだらしい。神田を寝室へ送っておいて

アケミはかねて云いつかっているから、大広間を横切って、久子を神田の居間へ通した。居間、寝室、浴室と小部屋が三ツ並んで

神田が室内から大声でよんだ。アケミはうるさそうに、扉から顔だけ差しこん

神田が何かクドクドと云った。アケミは扉をしめて文作のところへ戻っ

「お前まさか神田兵太郎を殺しやしまいな」

「神田兵太郎が自殺したんだ。しかし、他殺の疑いもあるらしい。とにかく、

の用がすむまで他社に貴公を渡したくないからさ。神田兵太郎が死んだのは、貴公があのウチにいた前後なんだ。

「オレのいたのは正午だよ。神田先生はシャワーを浴びてピンピンしてたよ」

みた。そしてそこに全裸の姿で俯伏せに死んでいる神田を見出したのである。バスタオルが下半身を覆うている。ピストルで右の

そのラジオは神田自身がスイッチをひねったのである。唐手の立廻りの練習をはじめる時

関係ですか。そんなこと知るもんですか。僕には、神田先生の私生活は興味がなかったです」

「神田さんへいらッしゃるのですか」

部のメシを食ってるんだ。十五ひく三の十二分で神田先生が殺せるかてんだ。正午カッキリまで先生が生きてたことはオレ

それを予期していた久子は用意のピストルをとりだして神田を射ったときめこんでいる。

某紙に至ってはすでに久子を犯人に仕立て、裸体の神田が彼女に襲いかかろうとしたから、かねてそれを予期していた久子は

、乱れ一ツなかったそうじゃないか。唐手の達人神田兵太郎の襲撃をうけて、そんな器用な応対ができるのは女猿飛佐助ぐらい

ばために神仏の心も動く日数である。近来彼ほど神田邸の門をくぐった者はいないはずだ。

はすでに百回も神田邸へ日参している。そのうち神田に会うことは極めて少く、概ねただ原稿をうけとりサンドウィッチを食ってくるだけの

ともかく彼はすでに百回も神田邸へ日参している。そのうち神田に会うことは極めて少く、概ねただ

「まず神田という作家の生態を解明する必要がある。それのできそうなのは

、神田が久子の来訪を待ちかねていたこと。その神田が久子を隣室に待たせておいて顔も見せずに自殺するとは

より以上にツジツマが合わないことは、神田が久子の来訪を待ちかねていたこと。その神田が久子を隣室に

久子がこう申し立てているにも拘らず、神田の様子はそんな約束をしているようには思われないのだ。久子

「神社の前で待っておれと云ったのは神田先生本人の電話かね」

「神田先生御自身です。マチガイありません」

しかし、神田が久子に電話したのを聞いていた者はいなかった。もっとも

文作はそんなことを考えてみたが、神田という生活力の旺盛な作家が無理心中とはすでに変だ。

「すくなくとも神田が生きていたのは十二時五分か十分までである。屍体

このラジオはアケミの記憶によれば神田が唐手の型をやりだす時にスイッチをひねったもので、文作の

問題は、ピストルが誰の物かということぐらいだ。神田がピストルを所持していることはアケミも木曾も知らなかった。

「どの新聞にも欠けているのは、君が神田家へ到着するまでの出来事に関する調査だね」

オレの到着前のことは無用さ。オレが立去る瞬間まで神田兵太郎氏は生きていたのだから」

「イヤ、イヤ。彼の生死にかかわらず、神田家に異常が起ってからのことは漏れなく調査されなければならない

そのまた先には女中への手紙。そのまた先には神田氏から久子さんへの電話。それは事件の前日午後二時だから、

「神田邸では?」

分間ぐらいして、サンドウィッチをほぼ平らげたころに、浴室の神田氏がタオルと怒鳴ったので、アケミさんは座を立った」

「左様。それが毎日の例なんだ。神田氏の食事の時間は不規則でずれてるから、アケミさんはオレを待って

台所へサンドウィッチを取りに立ってくれた以外はね。さて神田氏はシャワーをとめてアケミさんからタオルをうけとってくるまって……」

「バカ。よその浴室をのぞく奴があるかい。神田氏は口笛ふいて寝室へかけこみ、アケミさんは広間へ戻ってきた。

「つまり君は神田先生には会わないのだね」

の貯えもないことを当然だと思っているらしいが、神田氏の食生活や性生活は門外漢には神秘的かも知れないが、一千万円

おかしく書き立てているが、実はみんな想像にすぎない。そして神田氏が浪費家で一文の貯えもないことを当然だと思っている

「ねえ。君。各紙は神田兵太郎氏の性生活を面白おかしく書き立てているが、実はみんな想像にすぎ

わけじゃない。しかし、君も、そして人々も、君が神田氏を見たものと思いこんでいるのさ」

てから、つまり十一時四十五分から正午までだ。君は神田氏を見たわけじゃない。しかし、君も、そして人々も、君が

「イヤ、それじゃない。君が神田家へ到着してから、つまり十一時四十五分から正午までだ。君は

「神田氏はたしかに生きていたよ。その声をハッキリきいてる」

。さすれば結論は明瞭じゃないか。ピストルは彼女が神田家に到着後に発射されたものではないということだ」

「しかし、アケミさんは神田氏と話を交しているじゃないか」

させ文作の到着の一時間も前にバスをあびた神田氏を殺しておいて、かねて用意のテープレコーダーで正午以後の殺人と思わせ

て全財産を乗ッとる計画をねっていたが、神田氏が久子に呼びだしの電話をかけたのを知って女中と書生を外出

が安川久子に心を動かし始めたのを見破って以来、神田氏を殺して全財産を乗ッとる計画をねっていたが、神田

の奮闘によってアケミの犯行が発かれた。彼女は神田氏が安川久子に心を動かし始めたのを見破って以来、神田氏を

銀座

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「私も一しょに銀座へ遊びに行こうかな」

「僕はまッすぐ銀座へでるんじゃないんですよ。これから挿絵の先生のところをまわって

東京

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「まア、かけたまえ。君の来訪に備えて東京の全紙から事件のスクラップをとっておいたが、云い合わしたように報道