父の百ヶ日前後 / 牧野信一
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といふ女と親しくなり、そして父親の事業の相談が忙しく東京などからお客が多かつたのだ。母が嫉妬深くて夜十二時近く
「東京からお客様ださうです。」
た財産を何うして回収すべきか? お前はもう東京へは出ずに家の後始末をしなければならない――といふこと
「出来ると思ふんなら、東京へ出るのもいゝでせう、だが私にはそれは信じられない
「此頃はまた東京だ、東京と聞くとゾツとする、女房や子供は家に置きツ放しで、何
「此頃はまた東京だ、東京と聞くとゾツとする、女房や子供は家に置きツ放し
たつもりなのだ。地震で家が潰れて以来彼は東京へ出て、以前関係のあつた新聞社の社会部の下級社員に採用し
勿論、何をしてゐるか解つたものぢやないよ、東京へ行けば独りでのうのうと出たら目な享楽に耽つてゐるんだぞ
「僕は、これから東京で事業を起さうと思つてゐるんです。」彼は、てれ臭さ
あたしだつてもう家には帰れないんだから、あなたが東京へ帰るんなら一処に伴れてつて下さい。」周子は、彼とお蝶
「東京へいらつしやる、いらつしやらないは別として、若い奥さん
ことだ。そして、洞ろで悲しいやうな心を抱いて東京を離れた。
「いや、兎も角、お前達を伴れて東京へ行くとなると……」
て置かなければなりませんよ。その上でならあなたは東京へ行かうと、自分の好きなことをやらうと差支へありません
「東京の新聞社ぢや大したものだらう、尤も俺は日本の新聞社は何処も知らない
なるとワザとらしい淡々さを示すのだつた。自分は東京へ行くのさへ億劫がる癖に。「俺も来年は一寸行つて来やう
彼は、わざ/\同人連中を迎へに東京へ出かけた。汽車賃がかゝるから厭だと云つて半分の者は、
「タキノも東京へ来んけりや駄目ですぜエ、こんな田舎に引ツ込んでゐちや…
は父にはさうは云はなかつた。その後たつた一度東京で彼等に会つたが、誰の口からも一言も小田原の話は