良夜 / 饗庭篁村
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の種となりて胸につかえたる碓氷も過ぎ、中仙道を熊谷まで来たり。明日は馬車にてまっしぐら東京へ乗り込むべしと思えば心に勇みを
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主公は朋友の懇親会に幹事となりてかの夜、木母寺の植半にて夜を更して帰途なりしとなり。その事を言い出て大いに
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先に茶を運びし小女は、予が先夜吾妻橋にて死をとどめたる女なりし。主公は予をまた車夫に命じて抱き止め
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して予が未だ涼み居るを瞥視して過ぎたり。金龍山の鐘の響くを欄干に背を倚せてかぞうれば十二時なり。
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を知り語を覚ゆるだけの方便なり。今二三年は新潟にて英学をなしその上にて東京へ出でよ、学問は所にはよらじ、
、天下第一の大学者とならんと一詩をのこして新潟の学校を去り在所にかえりて伯父に出京の事を語りしに、伯父
伯父にも口を開かせぬ程になり、十五の歳新潟へ出て英学をせしが教師の教うるところ低くして予が心
洩れ聞きてさては我はこの郷に冠たるのみならず、新潟県下第一の俊傑なりしか、この県下に第一ならば全国の英雄
万世橋の傍らへ下ろされたり。この時の予はもとの新潟県下第一の豪傑穂垂周吉にあらずして、唖然たる癡呆の一
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西京に留学せし頃の旧知今はよき人となりて下谷西町に住うよし、久しぶりにて便りを得たり、別紙を持参して諸事
を話し、届きたる袷に着替え、伯父よりの添書を持て下谷西町のその人を尋ねたり。黒塀に囲いて庭も広く、門より
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へ出でよ、学問は所にはよらじ、上磨きだけを東京にてせよ」と止められ、志を屈して一年程は独学したれど
方便なり。今二三年は新潟にて英学をなしその上にて東京へ出でよ、学問は所にはよらじ、上磨きだけを東京にてせよ」
出京の事を語りしに、伯父は眉を顰め、「東京にて勉学の事は我も汝に望むところなり、しかしまだ早し、卑近なり
事はあるまじ。龍は深淵にあらねば潜れず、東京へ出て我が才識を研ぎ世を驚かすほどの大功業を建てるか、天下
しつつ廻るのと、児戯に類する事を学ばんや。東京に出でばかかる事はあるまじ。龍は深淵にあらねば潜れず、
しか、この県下に第一ならば全国の英雄が集まる東京に出るとも第二流には落つまじと俄かに気強くなりて、密かに
も過ぎ、中仙道を熊谷まで来たり。明日は馬車にてまっしぐら東京へ乗り込むべしと思えば心に勇みを持ち、この宿りにては風呂へ入り
き旅に上りぬ。路用として六円余、また東京へ着して三四ヶ月の分とて三十円、母が縫いて与えられし腹帯
穂垂の息子が東京へエライ者になりに行くぞ目出とう送りてやれよとて、親族よりの餞別見送り
眩み腹は揉める。死なざりし事を幸いとして、東京神田万世橋の傍らへ下ろされたり。この時の予はもとの新潟県下第
かけし障子襖を其所へ捨て逃げ去りしなりというに、東京という所の凄じさ、白昼といい人家稠密といい、人々見合う中にて
、浅草三間町の深沢某なり。この人元よりの東京人にてある年越後へ稼ぎに来りしが病に罹りて九死一生となり、
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馬丁に叱られ右に避け左にかがまりて、ようやくに志す浅草三間町へたどり着きたり。
足だまりの城として伯父より添書ありしは、浅草三間町の深沢某なり。この人元よりの東京人にてある年越後
浅草諏訪町の河岸にて木造の外だけを飾りに煉瓦に積みしなれば、暗く
をまた車夫に命じて抱き止めさせし人なりし。小女は浅草清島町という所の細民の娘なり。形は小さなれど年は十五
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腹は揉める。死なざりし事を幸いとして、東京神田万世橋の傍らへ下ろされたり。この時の予はもとの新潟県下第一
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て馳走かぎりなし。翌日は先ず観音へ案内し、次の日は上野と、三四日して「さてこれよりよき学校を聞き合せ申すべし、あなたに