春の郊外 / 大町桂月
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ではとて、渡をわたりて、泥濘の中を衝いて飛鳥山にのぼれば、前日來りし時に、遊客の浮かれし處、忽ち雨に蕭
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行徳を經て、海に入る、小利根とも稱す。銚子へゆくに、關宿まで行けば、非常な迂路なれど、こゝより野木崎までに
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し日には、木の隙間より、武藏野をへだてて、富士山も見ゆ。三四分の開花にて、殊に雨ふりたれば、遊人なし。路は
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。櫻は、土手全體にはつゞかず。川口の手前の東京府が盡くる處までつゞく。向島をあはすれば、四五里もあるべく、
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まで、汽車に由る。家は近けれど、濡れついでに、小金井まで、濡れにゆかむ。むかし、禹が、家門を過ぐれども入らざり
はむとするに、雨の爲に、延ばしたりといふ。小金井に遊ばむには、甲州線に由りて、境に下り、小金井に出で
遊ばむには、甲州線に由りて、境に下り、小金井に出で、玉川上水を溯り、歸りには、國分寺より汽車に乘るが普通
國分寺より小金井の櫻までは、半里の程也。幾度も通りたる路なれど、ふと曲り
一老人ひよこ/\來たる。これは、小川村へゆく路也。小金井の路は、ずつと、あとにあり。されど、この邊の小路へ曲るも、
小金井の花の區域は、凡そ二里にわたる。向島よりは長く、熊ヶ
也。山櫻の美は府下この處にのみ見るべし。小金井の花を見ざるものは、未だ櫻を談ずべからず。斷じてこれ
は、東京の櫻の二大長堤なる熊ヶ谷土手と小金井との櫻を見て、財布の空になると共に、一先づ家に
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むと、冷金子をうながしたてて、歩を進め、松伏、金杉を經て、利根川をわたれば、日暮れたり。路の兩方には、桃林
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さらでだに、遊客は、向島に遊ぶも、木母寺にとゞまりて、こゝまで及ぶ者は多からざるに、雨ふりたれば、遊客
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堤もつゞき、櫻もつゞけり。この堤は、大宮と川越との間まで續く。熊ヶ谷土手とも云へば、荒川土手とも
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古梅園とて梅園もあり。越ヶ谷の本宿の東方にも、元荒川の左岸に桃林あり。こなたに麥畑あり。川を中にして、緑
、市川にゆづり、見渡しの晴れやかなるは、こゝが勝る。元荒川は近けれども、桃林それまでは及ばず。遊客は、ほんのぽつ/\ある
の間を過ぎ、菜畑を過ぎ、麥畑を過ぎて、元荒川と街道とを隔つる堤上に立つ。大房の桃林の一部遙に見ゆ。ながめ
急ぐ路なれば、人力車を走らす。十餘町の程也。元荒川の左岸に、森林を爲す。鳥居より社前まで可成り長し。祠畔、小池
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といふ。その言に從ひてゆけば、間もなく、玉川上水に出でたり。
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兩國橋より、東武線の鐵道に乘る。この線は、本所を過ぎ、龜戸より左折して、鐘ヶ淵、北千住、草加、越ヶ谷、粕壁、久喜
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かそこらにてすむやうになれり。流山を經て、松戸に上陸す。江戸川の左岸に接して、奧州濱街道に當れる處也
散らむとて、成田へと思ふ心をひるがへして、松戸より北千住まで、汽車に由りて、やがて、熊ヶ谷土手に出づ。隅田川の
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眺望の佳とを、こゝの特色とす。余は、水戸の常磐公園よりも、むしろこの園の自然の趣あるを取らむとす
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(例)新宿
、人家の間に入り、新宿の渡をわたる。東京の新宿は、しんじゆくと濁れど、こゝは、しんしゆくと澄みて訓む。西金
趣を添ふ。堤つきて、人家の間に入り、新宿の渡をわたる。東京の新宿は、しんじゆくと濁れど、こゝは、
花も一時と、悟り顏して、去つて、板橋より新宿まで、汽車に由る。家は近けれど、濡れついでに、小金井まで、濡れ
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來たわいな』など云へる、可憐なる有明節も、今は東京にすたるやう也。越ヶ谷にて下る。
つきて、人家の間に入り、新宿の渡をわたる。東京の新宿は、しんじゆくと濁れど、こゝは、しんしゆくと澄みて訓む
川俣東京間を往復する汽船、こゝにも立寄る。乘りて、江戸川を下る。
向島をあはすれば、四五里もあるべく、啻に東京第一の櫻の長堤たるのみならず、天下にも幾んど、その
。櫻は、土手全體にはつゞかず。川口の手前の東京府が盡くる處までつゞく。向島をあはすれば、四五里もある
は、未だ櫻を談ずべからず。斷じてこれ、東京第一の櫻の名所也。橋いくつもあり。小金井橋のある處が
越ヶ谷の桃、次の日は野田の桃、三日目は、東京の櫻の二大長堤なる熊ヶ谷土手と小金井との櫻を見て
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ちらと汽車の窓より、緑樹のひま/\に眺め、北千住を過ぎては、東北郊に特有なる菜の花を眺む。とぼし油の需要
線は、本所を過ぎ、龜戸より左折して、鐘ヶ淵、北千住、草加、越ヶ谷、粕壁、久喜、鷲の宮、羽生を經て、利根
とて、成田へと思ふ心をひるがへして、松戸より北千住まで、汽車に由りて、やがて、熊ヶ谷土手に出づ。隅田川の左岸
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川をわたり、館林を經て、足利に達する筈也。向島の櫻雲を、ちらと汽車の窓より、緑樹のひま/\に眺め
ず。川口の手前の東京府が盡くる處までつゞく。向島をあはすれば、四五里もあるべく、啻に東京第一の櫻
、凡そ一里の路、堤の兩側、みな櫻、これ向島也。綾瀬川を入れてより上は、荒川にて、川の名は變
さらでだに、遊客は、向島に遊ぶも、木母寺にとゞまりて、こゝまで及ぶ者は多からざる
べし。向島の土手は、まだ川に近し。こゝは、向島よりも、遠く川を離れたるも、一の缺點也。
櫻かな』の連中は、あきたらず思ふ處なるべし。向島の土手は、まだ川に近し。こゝは、向島よりも、遠く川を
小金井の花の區域は、凡そ二里にわたる。向島よりは長く、熊ヶ谷土手よりは短けれど、一道の清流をはさんで
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利根川に接する川俣にとゞまる。やがて川をわたり、館林を經て、足利に達する筈也。向島の櫻雲を、ちらと汽車
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より左折して、鐘ヶ淵、北千住、草加、越ヶ谷、粕壁、久喜、鷲の宮、羽生を經て、利根川に接する川俣にとゞまる
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、本所を過ぎ、龜戸より左折して、鐘ヶ淵、北千住、草加、越ヶ谷、粕壁、久喜、鷲の宮、羽生を經て、利根川に
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。この線は、本所を過ぎ、龜戸より左折して、鐘ヶ淵、北千住、草加、越ヶ谷、粕壁、久喜、鷲の宮、羽生を經て
やがて、熊ヶ谷土手に出づ。隅田川の左岸、枕橋より鐘ヶ淵まで、凡そ一里の路、堤の兩側、みな櫻、これ向島也。
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熊ヶ谷土手とも云へば、荒川土手とも云ふ。千住あたりは、三軒茶屋堤の稱もあり。櫻は、土手全體にはつゞか
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ど、堤もつゞき、櫻もつゞけり。この堤は、大宮と川越との間まで續く。熊ヶ谷土手とも云へば、荒川
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里の路、堤の兩側、みな櫻、これ向島也。綾瀬川を入れてより上は、荒川にて、川の名は變れど、堤
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、汽車に由りて、やがて、熊ヶ谷土手に出づ。隅田川の左岸、枕橋より鐘ヶ淵まで、凡そ一里の路、堤の兩側、みな