樹氷 / 三好十郎
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のすすめで、大学は途中でやめて法律の勉強のためパリに渡られたのですけど、それを前にして春子さまに対してタッテ
春子 どうして、しかし、私がパリに行って敏行さんと結婚するのが不幸になることになるの? 幸福
敦子 ちがいます! 春さんは、そうすればパリに行けて、華やかな外交官夫人みたいな生活が出来るから、そうしたいと思っ
勝介 はは、今になって馬鹿なことを。あんなにパリに行きたがっていたくせに。
春子 ええ、そりゃパリは見たいけど。
それよりも、そら、お前こそ涙を拭きなさい。はは、パリで待っている御亭主よりお友だちが恋しいなんて、いつまでもそういうネンネで
お豊 その御主人と仲よく、花の都のパリで、それこそ派手な暮しをなすっているんでしょ? にくらしいわねえホント
外とうのポケットをモガモガとさがして)ああこれだ。フランスはパリから柳沢金吾あてつう。この雪じゃおいねえから、お前そこい行くなら届けて
お豊 フランスのパリから――? 又その春子さんから来たのね、どれどれ?(と
(少しおさえた声で金吾に)いえね。お父様がパリでおなくなりになって――それを思い出しなすって。
あの女を何だと思っているんだ? ありゃ、パリで食いつめて、そいで日本に金もうけにやってきただけの女だぜ。
なったけど、しかし根っからの悪い人じゃないのよ。パリ以来私にはズットやさしくしてくれたし、現在でもシンは私たちのこと
私の言うのはその事じゃないの。パリで結婚式をあげてから三月もしたら、もう変な女の人と遊び歩い
せてすみませんが、さっきも申し上げたように、そのパリで亡くなられた黒田先生とはカラマツの事で懇意にしていただきましてな
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いる学者でね、まあ、貧乏人が山小屋たてようと言うには軽井沢へんよりはここらがよかろうと言うのさ。なにかね、この辺で、土地
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かなんかやっている内だ。又なんだか知らんが満洲へんでゴタゴタが起きたらしいんで、そ言った内では景気が良いらしい
石川 そりゃしかし浜子さん、そりゃちがう。社長はいよいよ満洲で戦争がはじまったんだから、セメント山もセメント山だけど、鉄の方
の病気なんぞ、ホントはなんでもないの、実は、満洲でああして戦争みたいになっちまって、主人は商売のことで先日から朝鮮
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歩いて来ながら草津節)……お医者さんでも、草津の湯でもドッコイショ! 惚れた病いは、コリャ、なおりやせぬよ、チョイナチョイナ
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それから、こちらは敦子さんのイトコさんの香川賢一さん。札幌の農大にいらっしゃるの。
っきりになったが、僕あ、やっぱりなんだな、札幌あたりの大学の空気の中に何かしらん良く言えば詩的、ハッキリ言うと感傷的な
あ、そんな事言ってるんじゃないんだ。それに、札幌のうちの大学が全体として僕と同じような気分の学校と思われ
金吾 札幌の大学の歌でやす。都ぞ、弥生の――(一節をうたってみる
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香川 よろしく。
香川 なんですか、これ、水田にするんですか?
香川 ああ、そりゃたしか高山植物の一つだ。
香川 (まだ寮歌をハミングで歌っていたのがフッとやめて)やせがまん
香川 ここにハンケチ敷きましたよ、ちっと掛けたら?
ますので、春子様のお父様と春子さまと私に、香川、この四人が信州に行って、その夏を暮したのです……ちょうど
が炭焼きがまを築くと言いますので、二三日前から香川は手伝いに通っていて、私と春子さんはあとから、その小川の岸
香川 (「札幌農大寮歌」をハミングしながら、それに拍子を合せて、炭焼
香川 じゃ、後の方をもう少しやるかな。……(と、ベタベタと
香川 いや、これで僕なんぞ農科なんぞに行ってて、実習もさんざんやってるん
香川 だからさ、僕らみたいに学校教育の中にアンカンとしてるだけでは
香川 だからさ、その川合君の勉強にしてからがさ、直接にこゝ
香川 わかるなあ、その気持は。……(泥を叩く)川合君と言えば
香川 妙なことで、こんな所に来さしてもらって、君や壮六君など
香川 いやいや、なんでも無い。……(泥を叩く。ヤケ気味に歌の
香川 フランスだとかアメリカだとか、僕の柄じゃ無いんだ。ブラジル移民
香川 (それを聞きつけた瞬間に盆歌をやめている)あ、春子さんたちが
香川 食べる物もって後で行くと言っていたから……(二人は耳
香川 (それに合せて、支離めつれつな調子で歌「五丈原」)
私や、そいから敏行さんや、そうそう、あれはイトコの香川も一緒でしたっけ。八ツ岳へ登るんだと言ってここを通りかかって
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前などは殆ど毎夏出かけましたが、殊に好きなのは八ヶ岳の裾の高原地帯で。ちょうどそれは太平洋戦争がはじまる一年前の夏の
一人で出かけて、高原深くわけ入り、その方面でいえば、八ヶ岳の麓の人里では一番奥の、最後の部落にあたる落窪という村の
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木曽のナ、なかのりさん、木曽の御嶽さんはナンジャラホイ、夏でも寒い、ヨイ
木曽のナ、なかのりさん、木曽の御嶽さんはナンジャラホイ、夏でも寒い、ヨイ、ヨイ、ヨイ。
須川 おい、婆さんよ――木曽のナ――(春子の体を横だきにして、土間に足音をひびか
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やがて立停っていた下駄の音が大通りを曲って、山の手の屋敷町の方へ入って行く。(金吾)……
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春子 あら、するとお父様、これが佐久の街道?
春子 いいえ、その詩にあるの、歌悲し佐久の草笛って言うの。
春子 (朗詠の節をつけて)歌悲し佐久の草笛。
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もともと、高い山の中で生れた子でね、わしが北海道の奥の高原に入りこんで、あの辺の林を見ていた時分――
原地はやりようで麦やジャガイモや、それから酪農、まあ北海道へんのような農業には向くかもしれん。そうかね、そりゃ、私の
ことを考えてて、ことに信州のあの辺の景色は北海道によく似てる似てるとお父様からも言われているんで、私、しょっちゅう
を生んだお母さん、つまり先生の奥さんが急病で亡くなられた北海道の山の中があの野辺山の景色にソックリと言ってよいほど似ているそう
鶴 奥様のお生れになったのが北海道の山の中で、この辺とよく似た所だとかって伺ってい
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が少しおかしいと言う気がするんです。たしかその山は秩父の方でしたね。
それから銀座の方で、割烹料理屋につとめたり、しまいに秩父の方の、そのセメント山の事務所の留守番をやらされたり、それで敏行が
。横浜の敦子小母さまの所に行くんだとか、秩父のセメント山の方へ寄るとか言ってたけど。横浜の父がああし
で俺あ、これから敦子さまのお内へ行くか、秩父の方へ行って見るか、とにかく俺あ出来るだけの事はしやすから。とにかく敏子
は、もしかすると横浜の敦子おばさまの方か、秩父の方かもしれないとおっしゃったそうで――。ですから実は私、
敦子 そう! そうだったの。すると金吾さん、秩父の方へ先きに行ったかもしれないわね。いえ、敏ちゃんの事
ないよう、出てこないようにしているらしいの。秩父のセメント山の事務所なぞに押しこめられたりしていたのが、やっぱりそういう
、それから横浜の敦子さまの方へ廻って、又、秩父の方へ行ってみると、春子さんはもうそこにはいなかったそうで
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(東京の青山の黒田家の応接室のマントルピースの上のフランス製のオルゴール時計から流れ出すワルツ曲)
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遊んでなんかおれなくなるかもしれないのよ。父が横浜で生糸の貿易などに手を出したでしょ、そっちの方の手伝いに行かされる
勝介 これで横浜も、いっとき見おさめだ。だが、私などが、アメリカに渡った時分にくらべる
春子 オールヴォア、横浜! アツコさま!
春子 えゝ、結婚なさって、横浜にお住いなの。そりゃお仕合せでね。しかしまだお子さんが無くて敏子を
別の女の人と行方知れずになって、その後横浜にいるといいますけどね、セメント会社の方は、いつの間にか横田
敏子 それが私にもハッキリ言わないの。横浜の敦子小母さまの所に行くんだとか、秩父のセメント山の方へ
秩父のセメント山の方へ寄るとか言ってたけど。横浜の父がああして私の事でチョイチョイ来るし、それから横田の小父さん
無いじゃありませんの! いえ敏行さんは、ズーッとこの横浜の野毛あたりに住んでいるそうでね、一度私も行き会ったことがあるの
内へ参りました。すると、敏子さまは暫く前に横浜のお父さんが連れてお帰りになって、新橋の芸者屋さんに預けられて
まあ、敏子さまが金吾さんにお母さまは、もしかすると横浜の敦子おばさまの方か、秩父の方かもしれないとおっしゃったそうで
春子さんに会わしてくれないんですと。で、それから横浜の敦子さまの方へ廻って、又、秩父の方へ行ってみると、
いろんな目に逢いなすったそうで、お嬢さんの敏子さまは横浜の敦子さま御夫婦のお世話で芸者にはならずにすんだようで、その
奥が何かしらキューンと鳴るような気がする。東京や横浜の近頃なんて騒々しくてね、戦争はだんだん拡がる一方だし、食べるものや飲むもの
風にして私は落窪で二三日暮して、一人で横浜へ帰って来ましたが、そうです、あれから二月も経たない、その
で、それに頭があんな風になっておいでだし、横浜の敏行さんに相談したくても、これはもう、よりつきもしない有様
これをお食べなして。春さんや敏子さまやそいから横浜の敦子さまにも食べさせべえと思って持ってきたやつで――。
と、行く所もなくなってるし、その中に空襲だ、横浜で焼け出されてな、ウロウロしている中に、ヒョイと、敏子に赤ン坊が
て、いや、来ねえと言うと、すぐまたその足で横浜の方へ行くと言って立去った。そう言ったそうで、仕方がないの
したら、そこにも春子さんは姿を見せてねえ。横浜の空襲の時に、敦子さんの家が爆弾をうけて、そのとき、敦子
金吾 無事でがす、敦子さまは横浜の空襲で足をちょっと怪我しなすったが、大したことはねえ。敏子さまは
抱えて、一度警察に頼んどいてな、そいから横浜へ赤ン坊をおぶって飛んでって、敏子さまや敦子さまに知らせて、赤ン坊
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そんなわけで私があちこちしてる間に、甥をたよって浜松の方へ引っこんでしまったの。
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はは、敏行君が首を長くして待っている。マルセイユまで迎えに出ている筈だ。
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、たかが一里たらずだろう、平気さあ。ああやって赤岳なんぞ鼻の先に見えてるんだもの。
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(昭和十年ごろのフォックス・トロットのレコード曲。烏森を芝公園の方向へ出はずれる辺の町通りの喫茶店からの)
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は、もうほとんど無いし、一二軒残っているのはみんな岡山の方にいるんだし、長与の方の親戚はみんな私の事なぞ
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乗ってくれていようが、ちょうど半月前から試験場の用事で青森の方へ出張してて――とんだ、どうも、あんたらに苦労を
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しまいに敏行を助ける金をつくるためだというので、千葉の方へ行って芸者に出たりまでしたのよ、それから銀座の
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たが、恰度私達夫婦に子供がありませんので、広島の方の私の親戚から杉夫という甥を引取って養子にしてあり
ね、仕方がありません、一週間ばかりのうちに、広島の部隊に入隊するということになったんですが、さあ、そうなっ
よりつきもしない有様で、そういってる間にも、広島の部隊に入隊しなければならない日は迫ってきます。
か、はっきり言って下さい。杉夫さんは明日の朝早く、広島に立たなくちゃならないんです。だのに杉夫さんも敦子おばさんも
で、いえ、これの親は――母親だけですけど、広島の田舎に居ましてね、まあ、こういうことについても、ホント
ません。そいで五日でも六日でも、その広島の方について行って、ご一緒に暮すの。それが一番よ、
翌朝、杉夫と敏ちゃんは入営見送りを兼ねて、二人で広島の方へたって行ったのです。その後、春さんは私のところ
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と言うのは、軽井沢あたりと違って、この辺には東京の人たちの別荘など、まだほとんどないのです、古びた山小屋が建って
、金吾老人と金太郎君とも別れを告げ、宿屋を引きはらって東京へ戻ってきたのです。次の年もだいたいその辺に行きたいという気
夏もすぎて秋も深まってきたので、私は東京へ帰らなければならなくなり、金吾老人と金太郎君とも別れを告げ、宿屋
だけです。その山小屋とその周囲の山林は、なんでも東京の黒田という家の所有になっている、それの管理一切を老人は
――そしてこれ一行だけ。馬流の壮六に頼まれ、東京の黒田様の案内をして落窪の奥へ行く――
壮六 うん、県庁の斉藤さんに頼まれてなあ、東京の偉え人を案内して急にこっちいのぼって来ただ。……
、そりゃそうかもしれんが……んでも、そんな東京のしなんずと口いきくの窮屈で俺あ、ごめんだなあ。
気持で笑っているんじゃない。そういう立派な手は東京あたりにはもう見られないもんだからね。
(東京の青山の黒田家の応接室のマントルピースの上のフランス製のオルゴール時計から流れ出すワルツ
当時、つまり明治の末から大正の初めにかけての、東京の割に良い家庭で苦労知らずに育って、高等教育を受けた私
香川 そうかなあ。……僕ら東京へんで育った人間は駄目だな。
乗客一(男) 東京までの切符一枚、
以前の通りだし、住んでいる人たちも変らない。東京へんの変りようと言ったら。フランスに居る頃から私、今年の春もどっ
泊りに来て下さるから、安心するのね。当分私、東京へは帰らないで、こゝで暮そうかしら?
敏行 さ行こう。そいで直ぐ一緒に東京に帰ろう。
その話は後でゆっくりしよう。それとも何かね。東京に帰るのは、どうしてもイヤかね? どうしてもいや
さんの別荘やなぞが売りこかされようとしている所へ東京から敦子さまがお金を持ってかけつけて下さってね――いえ、内の
、すみません。こんな御心配かけて。……私、東京では、もう、どうしようもなかったの。敦子さんにはあんまり度々御
だって私は寝ながらそう考えていたのよ。もう東京へなんぞ帰らないで、ここで私金吾さんにお百姓の仕事ならって、
……そう、私はなんにもやれない人間だわ。東京に居れば居るで、みんなのじゃまになるし、ここにやって来ると
横田 はっははは、やっぱりここだったなあ。さあ春子、すぐ東京に帰るんだ。
、春子さまがどうしてああ言われて、その場から東京に一緒にお帰りになったんですかね。
になったからじゃないの、それから、春子さんがまたまた東京でひどい目にあうからというだけのためじゃないの。私が、ホント
来てみたら、昨日横田が現われて、春子さんたちを東京へ連れて行ってしまった後。あなたはそうやっていろりの傍でぼんやり
か行っちまったと言うの。そいで仕方がないから、東京の心当りをあちこち探した挙句、ヒョイと気がついて、もしかすると
ということがねえだなあ。そうしちゃ春子さまはまた東京へ戻って、何やら勝手な暮しをなすってるようだし、そうやって
ことを繰り返してござらしたが、その間、あの方も東京で、いろんな目に会っていたようで、時によると、ホントの
ふうに、春子さまは落窪の方へヒョックリ現われちゃ、また東京へ舞い戻る、ということを繰り返してござらしたが、その間、あの方
探しても見つからなかった。金吾はがっかりして、痩せ衰えて東京から戻ってきた……いや、その後も、三年に一度、
れるようにして、金吾は春子さまの後を追っかけて東京へ行ったんでやす。しかしその時にはもう、春子さまが何処に
に暮す気でやって来たのに、それを、またまた東京の横田なぞにちょろりと連れて行かしてしまう。それというのが、あなた
金吾 壮六、俺あこれからすぐ東京へ行ってみべえ。
か何とかでな、そいで金吾が、これからすぐ東京へ行って来るつうけんどな、いかに何でも春子さまつう人も、虫
のしの言うとおりだ。だけんど、俺あどうでもちょっくら東京さ行ってみねえと、どうも気になって――
このまま出掛けるだかんな。ちょうど一時半の汽車に乗りゃ、今夜東京に着けるだから、――(ガタガタと裏口から上って、タンスの抽出し
東京の街路を、けたたましい号外うりのベルの音が走り去って行く。号外うりの
。ただ、金吾さんはそうやって、勝手もよく知らない東京をウロウロして、ひどい目に逢って可哀想にねえ……なぜ、
始まった年だったから昭和の十六年だ。なんでも東京でひどい病気になられたそうで、その後の養生をこっちでさせて
黒田の春子さんはその後も東京辺であちこちしていろんな目に逢いなすったそうで、お嬢さんの敏子さま
小さい子のように遊んでばかりいなすってね、それに東京からこっちへ来る時に拾って来たという犬をえらく可愛がっていやし
金吾 ははは、きんにょから、東京から敦子さまがみえて下すってるし、そこへ今朝っから海尻からお仙ちゃんが
耳の奥が何かしらキューンと鳴るような気がする。東京や横浜の近頃なんて騒々しくてね、戦争はだんだん拡がる一方だし、食べるもの
によくそう言ってくれろ。春子おばさんがどうしても東京へ行くと言ってきかねえから、俺あ二三日ついて行ってくるから
、こんなに戦争恐がっとるおばさんが、どうしてそんな東京へ戻りてえずら? よしゃいいにな。
って言うとね、しまいに泣くだよ。私は死んだって東京へ行って、敏子やそのお婿さんに逢うだと。
したんかなあ、おばさん、きんにょも俺が、東京へなんぞ行ったって、大戦争が始まったんだから、恐えことばかりだから
、そうさな、この金でな、お前先に行って東京――新宿までだ。新宿までの切符を二枚買っといてくれ。そい
お仙 だから、そんなに恐いんだから、東京へ行くのはよしにしたらええのに、なあ、おばさん。
春子 お仙ちゃん、そんなこと言わないで、私を東京へやって。敏子に私言わなければならないことがあるの。恐くなんか
わからねえんでやして、春さんがどうしても東京へ行くだちって、仕方がねえんで、俺あ、へえ、ただこう
、金吾さんは家のことがあるので、いつまでも東京に居るわけにはいかないので、信州へ戻って行きましたけど、
だなあ。誰も通らねえし……いつもこうかや、東京は?
三十男(穴の奥から)敵機を一機でも東京の空に侵入させねえなんて、えらそうなことを言ったのは、
金太 俺もう、東京はいやだ。春子おばちゃん見つけたら、一緒に、すぐ信州へ帰ろうよ、
たり、そうしといては、また保土ヶ谷へ引返しては、また東京へ出るというようなことで、二日も三日もあちこちと駈けまわった
は空襲にやられて死んだらしい、そんならば俺も東京で死んでもいいと思ったらしいんですねえ。……それからますますひどく
を一枚買って金太郎だけを信州に先に返した。東京で一緒にそうやって連れて歩いていて若い子にもしものこと
春子さんを探し出す気でいただ。で金太郎と二人で東京へ引返してな、なんでも一度新宿へ出て、やっとのことで汽車
夕飯を食うんだから帰るべ。そうやってお前は、東京から帰って来てからこっち五日も六日も、毎日昼すぎになると
、最後にそこへ行った時のことで、これでいよいよ東京へ帰るというので、スッカリ帰り仕度をしてから、金太郎君の家
たそうですが、そうです、この私にしても一度東京へ帰れば、もう再びこの二つの墓に参る折もないだろうと思い
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千曲川添いの街道を、幼少女を背に負い、春子をのせたリヤカアを引い
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春子 小諸なる古城のほとり、よ。
勝介 いやいや、いずれ小諸あたりから鉄道は通じるだろうが、これで戦争成金なんかじゃない、まあ山ばかり
はは。誰がこんな寒い所にいつまでも居るもんだ。小諸の大工が、もうへえ材木はすっかりきざみおえたから、こっちがよければ
そうかよ、実はまだ買ってねえんだ。ええ、小諸から小海線で野辺山という所まで行きたいんだがな、じゃひとつ
、もう一枚、切符を頼まれてくれねえかねえ。小諸まででも松本まででもどうでもいいんだ。
お豊 喜助は二三日前から仕事で小諸に行きやした。
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ていながら、急に群馬県の方へ出張しちゃって、上野へは敏行さんに連れて行ってもらう事になっちゃったり。
いらない。どうせ春さんたちのお伴だ。それに今日は上野へ行く前に銀座を案内しろと言う御註文だもの。どうせ千疋屋ぐらいは
駅員(上野)
金吾 ここは上野の駅だ。
折れたんじゃねえかと思う。弱っていたが、上野の山まで連れて行く間、別に何ともなかったが、林の
にうたれてな。いや、俺あやっと、この人ば上野の駅でみつけてな、そいで、こっちへ一諸に逃げて連れて
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さんたちのお伴だ。それに今日は上野へ行く前に銀座を案内しろと言う御註文だもの。どうせ千疋屋ぐらいはおごらされるのは
なってね、その入院の費用を稼ぎ出すために、また銀座へ戻って、する中に、敏行の病気が治ったと思ったら、あの
へ行って芸者に出たりまでしたのよ、それから銀座の方で、割烹料理屋につとめたり、しまいに秩父の方の、そのセメント
に行きたいと言ってたけど、暫く前から内で、銀座の裏に支店みたいなものを出してね。私の甥の杉夫という
継がせるということで、恰度暫く前から出していた銀座裏の支店を杉夫に委せてやらしていまして、そこへ敏子ちゃんを
金吾 銀座つうところの裏だがな、そこに敏子さまが留守番をしている店
てくれちって、じょうぶ言ったがな、どうしても銀座のその店に居るつうだ。なんでも敏子さまのご亭主の杉夫さん
金吾 あのう……銀座の方まで行きやす。
金吾 ……(立止って)ええ、ちょっとうかがいやすが、銀座の方へはこちらへ行ったら出やしょうか?
ガード下をくぐるから、そしたら左に折れて行くと銀座だ。
警官 銀座? そうさねえ、この電車の線路について真すぐ行くと新橋の
なってくる空襲のさ中をまた市川へ行ってみたり、銀座の店に戻ってやしないかと思って、そちらへも行ってみ
に、四、五日前に信州から出て来て、銀座へ行ったが誰もいねえし、そいから市川へ行ったり、保土ヶ谷へ
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出札(男) 新宿までですね? ……(ガチャンと音をさせる)
でな、お前先に行って東京――新宿までだ。新宿までの切符を二枚買っといてくれ。そいから、お前とお仙ちゃんの
な、この金でな、お前先に行って東京――新宿までだ。新宿までの切符を二枚買っといてくれ。そいから、お前
で金太郎と二人で東京へ引返してな、なんでも一度新宿へ出て、やっとのことで汽車の切符を一枚買って金太郎だけを
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つも残っていません。そしてあの人はああして新橋の方にその芸者の人に内を持たせて、いつもそこに泊って
芸者屋さんのことです。いえ私もハッキリ知らないけど、新橋へんで聞けばわかるんじゃないかしら。古くからの芸者屋さんだと言っ
鈴 (軽く笑って)新橋のね、芸者屋町で、小倉というのは芸者屋さんのことです
られているというじゃございませんか。それで私、新橋のそのおぐらという家へ行ったんでございます。可哀想に敏子さま
暫く前に横浜のお父さんが連れてお帰りになって、新橋の芸者屋さんに預けられているというじゃございませんか。それで
それは、敏子ちゃんをあんな風にして、新橋の置屋から私の手許に引きとって以来、私の主人の貿易の方の
そうさねえ、この電車の線路について真すぐ行くと新橋の省線のガード下をくぐるから、そしたら左に折れて行くと銀座
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麻布の家は幾重にも抵当に入っているし、渋谷の方の土地は売り払ってしまったし、それから株券だとか宝石や
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で、この辺の道はグルグルと、えらい曲っている。千曲川がこの辺では曲りくねって流れているからね、道はそれに添って
同じ千曲川と言っても、いろいろになるのね。さっきまで、あんなにゴツゴツして
(窓の外を見て)千曲川が、もう間もなくグッと曲りこんで、この道と離れてしまいやす
――ごらん、鶴や、この下を流れているのが千曲川。向うの、あのそれ、ズーッと奥に、うっすり煙のかかった山ね。
すこし離れた所を千曲川が流れる水の音。
音楽(第一回に出た千曲川のテーマと同じものを使用)
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春の、うららの、隅田川。