甲州 甲府 東京 小諸

サダ　ふふ、甲州の栃沢と中込の栃沢が久しぶり逢つて、たちまち喧嘩おつぱじめても、しよう

（あがりはなから）え、あんだえ？　あれま、甲州の新一ちやんと中込の次郎ちやんでねえかよ！

りき　よう来た。甲州でも中込でも、みんな変りねえか？

。はは、おぼえていやすかい、おかいこの指導で一二度甲州へ行つた森山でやすよ。

かつて、喜十さんちでは、そうなれば立ち行かねえから甲州へ国越えをするだの、娘売りこかして稼がせるのと騒いだ事が

て、本なんぞも、いつぺえ読んだりよ、今じや甲府の工場につとめて立派な月給とつたりしているからだ。

て今から青くなつてるのがチヤンとわからあ。俺が東京さ出ようと思うのが、どこがいけねえ？

次郎　……おれ、家にいてもしよう無えから、東京に出ようと思つてよ、そんで――

新一　俺が反対したんだそいつに。いや、ただ東京へ出るならいいけど――

に相談に来たつうのは、そいつたような気持で東京さ行きたいというのかえ？

紐をしごきながら）そうだ、次郎の相談だつたなあ。東京さ出るんだと？

やわからねえが、次郎は、すると、どうしても東京さ出てえのか？

ことだ。すれば、たとえしくじつたつて悔むこたあ無え。東京さ行け。そいで、うまく行かなかつたら又もどつて来い。

……うん。いや、そうだねえよ。ホントは俺、東京なんどへ出たくは無え。俺あ、へえ百姓が一番向いてるし、百姓

……なんだ、そうかよ。……そんだら、東京なんどへ出るの、やめろ。なあんだ、そうか――そんなら、やめろ／

のじさまが一度キツネにだまされた事あつてな、小諸の親戚の祝儀へ行つての帰りに、こゝの上まで戻つて来てん