現代忍術伝 / 坂口安吾
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アタクシも何を隠しましょう。御明察の通り、阿片などは富士山から箱根山をみんなヒックリかえしても、一グラムも出てきません」
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んでござんす。調査して分りやしたが、戦時中、富士山麓にアヘン密造工場があって、新兵器第何号とやら称して中国へ積み
ねえんだから、サルトルを信用してるワケじゃアないけれど、富士山麓にアヘンの秘密工場があったこと、終戦のドサクサに多量のアヘンが姿を
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(例)箱根底倉
物産製菓部カステラ、天草物産ツクダニ等々とある。このほかに箱根から清酒一樽と米一俵を取り揃える手筈もできている由であった。
「フツカヨイのオレにムリだよ。秘書は箱根へついてからでタクサンだ」
、ガンコだから、信心となると、何月何年でも箱根に泊りこむ意気込みなんですからね。ボクら、それが困るよ、なア。
、困らア。なア、雲隠君。もっとも、キミたちが会社と箱根を往復してりゃ、すむかも知れないけど、ボクはこんな山奥に何ヵ月も
信心ときちゃ、会社だって、諦めてるんだからな。箱根なら箱根、一ツ処に長持ちしてくれりゃ、ボクら、かえって仕事がしいい
ちゃ、会社だって、諦めてるんだからな。箱根なら箱根、一ツ処に長持ちしてくれりゃ、ボクら、かえって仕事がしいいや。
実はな。オレもマニ教の信者でな。社用で箱根へくる。社用の方はサルトルや熊蔵がやってくれるから、オレはヒマを
があっちゃア名折れだ。実はな、オレが商用で箱根へくるのは建築用材の買いつけだ。すでに一年半にわたって用材を
なって、仙石原を突ッ走り、峠を越えて、箱根の山裏の丘陵地帯へでる。杉山である。丘陵にかこまれた小さな平地へ
「マア、それもあるが、アタシは社長夫人を箱根へ案内する役目さ」
ものの世話まで焼かされては堪らない。これを機会に箱根と縁を切るに越したことはないから、社長室へ挨拶に行って、
さんだの材木なんか元々ボクに関係のないことだから、箱根へ戻るのは、もうイヤですよ。行くもんじゃねえや」
にここへ迎えの車をよこすから、山を見廻って、箱根で中食としようじゃないか」
。ウチの社長もアンマリじゃないか。オレだけ、ひとりぽっち箱根へおいてかれちゃ、骨ばなれンなっちまわア」
「よせやい。箱根で雲さんなんて、雲助みたいで、よくねえや」
「御案内の通り社長はマニ教に凝っとりやすので、箱根に出むいた折はアタシが代理で現場を見廻っとります。風流気はありませ
、ドジな取引に首を突っこみやがる。もう一っぺん、箱根へ戻れ」
をきこうじゃありませんか。アハハ。雲さんときやがら。箱根の雲さん」
しかし才蔵はまだ一方の心にシメシメ、ツルちゃんがサルトルと箱根へ行くことになったら、その時こそオレがうまくモノにしてやろうとほくそえん
「サルトルさん、箱根の裏山に阿片を埋めてらっしゃるって、ほんと?」
は埋めた阿片見せて下さるって仰有ったわ。私、箱根へ行って、見てきます」
本心を知らないから、シメシメ、万事思う通りになった、箱根でツル子をわがモノにしようと、これも内々ほくそえんでいる。
「私、おねがいがあるのよ。箱根へ行ったら助けていたゞきたい人があるの。今マニ教にカンキンされて
サルトル、才蔵、ツル子の三名は箱根へついた。
、みんな魂をぬかれたとなっては由々しい大事で、箱根の山が降りられません。ぜひとも対面を許していただきたく存じます」
あげるから、早いとこ、東京へ帰っておくれ。どうも箱根においとくと、あぶない」
「一しょに箱根へ戻らないか。一カン盗んで帰ろうよ。これから自動車で急行するんだ
しかしツル子と共に箱根を往復する機会は今後もありうる見込みがあるから、はやる胸をおし殺して、
「近藤ツル子、すぐ、箱根へ戻れよ。五時には、着ける。サルトルの宿へ泊って、彼を宿
なら、とにかく、女性ひとり、ザンコクだい。じゃア、ボクが箱根へ行って、サルトルをひきとめとくから、ツルちゃんが案内役で、阿片を掘ったら
子はバカバカしいばかりである。なんの不安もないからだ。箱根へ行って、サルトルに会えるほど安心なことはなかった。
致すのは、かえって風流ではありません。お嬢さんは箱根の旅館で待っていただくことに致しましょう」
じゃア、ツルちゃんは、ここで待ってるのがいゝや。箱根まで行くこと、あるもんか」
自動車は早川の渓流に沿って、箱根の山をのぼる。
、その翌日には、モーニングをきせられ、有無を云わさず箱根へ連れだされて、監禁をうけ、一時は狂気に至るテンマツ、天人ともに泣か
「ここは箱根だ! 箱根の底倉だ! しかし、まてよ。あの旅館は、たしか、
「ここは箱根だ! 箱根の底倉だ! しかし、まてよ。あの旅館は、たしか、明暗荘と云っ
分った。ボクは病気をしたのだね。ここは箱根の病院だ。昨日まで、箱根にいたのだから。しかしもっと眠ったか
たのだね。ここは箱根の病院だ。昨日まで、箱根にいたのだから。しかしもっと眠ったかな。二日ぐらい眠ったの
「信じられん。ここは箱根だろう」
ごめんなさい。そうお呼びしましたわね。三日間箱根で」
みはった。ああ、覚えている。はじめて見た時は、箱根へでかける朝だ。物も云わず、チョコレートをつめかえていた。宿屋では
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「じゃア、当分は芝浦の敷地へ材木をつんでもらうか。才蔵。芝浦の敷地の所番地と地図を
当分は芝浦の敷地へ材木をつんでもらうか。才蔵。芝浦の敷地の所番地と地図を書いておけ」
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何を隠しましょう。御明察の通り、阿片などは富士山から箱根山をみんなヒックリかえしても、一グラムも出てきません」
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「エエ。秋田でござんす。そもそもこれが、わが社社長の実家でして、社長は当年二十五
「製材所が秋田じゃア都合が悪いな。しかし新興商事会社はヤミ屋にきまっとるから、扱え
。尺五上が秋田営林署で千五百円で出しとる。キミは秋田に製材所をもっとるから知らんことはあるまい。マル公は千円
八百、尺上で千円。いゝところだ。尺五上が秋田営林署で千五百円で出しとる。キミは秋田に製材所をもっとるから知ら
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はきちがえとる。平和こそ力の時代である。法隆寺を見よ。奈良の大仏を見よ。あれぞ平和の産物である。雄大にして百万の
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あなた、柴野ッてヨタモンみたいな奴、知ってるだろ? いま銀座でダンスの教師やってやがら」
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同然だよ。半平の奴、ふてえ野郎じゃないか。明日東京へ戻って指令を待て、なんて、尤もらしいことオレに言ってやがるよ。
「チェッ。見ていやがれ。東京へ帰れッたッて帰るもんかよ。半平の野郎め、ギョッと言わせて
「アア、まずまず、オレの仕事はすみました。これから東京へ帰って、現像がオタノシミだよ。ツルちゃん。ビールビンに二本ばかり酒
「報告のため東京へ戻りまして、今はボク一人ですが、何か御用ですか」
六万か七万石、そんなところだろう。望みの期日までに、東京の指定の場所へ送りとゞけてやるぞ。どうだ。男児の生きがいを覚える
た。二人のせてやってくれ。雲隠はこれに乗って東京へ戻れ。今明日中に社長をつれてくる。手金は二割五分
「キミは何の御用で東京へ行くんだい。オレを送りとゞける役目かい」
ゴリラの馬鹿力にトラックへ押し上げられちゃって、おまけにサルトルが東京までニコヤカに護衛してやんだから処置ねえや。凄味のアンチャンがニコヤカ
「ボクは東京へ帰ろうなんて思ってやしなかったんですが、これこれしかじかの次第で
「ボクたちは毎月一回東京をはなれて食焔会というものをやってるが、大いに食い、気焔を
いっしょに箱根東京間トラックにゆられた仲だから、こうサルトルに訴えたが、ニコヤカに笑み
と、二人は社長の車で東京をさして出発した。
に説明を加えることに致しまして、お許しも得ず東京へ連れだしましたことを幾重にもお詫び申上げやす」
見込んで一任するが、立派にやってみい。オレは東京へひきあげるから、後はまかせる。しかしキサマ、すごい美形をつれてきたそう
べからず。駅まで自動車で送ってあげるから、早いとこ、東京へ帰っておくれ。どうも箱根においとくと、あぶない」
「ボクを東京へやって下さい。こちらの条件をきかせて下さい。かならず御満足のいく
さん。たのみます。上の方にとりついで下さい。ボクを東京へやって下されば、御満足のいくようにはからいます」
なくした方がマシです。どんな条件でも果しますから、東京へやって下さいな」
差しあげてお許しを乞いましたところ、おききゆるし下され、東京へ遷座し、かしこくも天草商事本社を神殿として御使用下さる由申渡さ
とじこもって、ほかに住むべき屋根の下もないところへ、東京のマンナカへ進出できることにあった。三階建の社屋から、大庭園
三人の魂をぬきあげたりと見すまして、東京遷座の用意にかかる。
「東京へ御遷座の由、おめでたき儀で、慶賀の至りに存じあげます」
がたきシアワセに存じあげます。御遷座の上は、ワタクシも東京におりまするから、御用の折は遠慮なく申しつけて下さいますよう。フツツカ
と、サルトルは目的を達し、正宗菊松をつれだして、東京へ帰ることができた。
て額面蒼白、目玉に妖光を放つ社長から神示をうけ、東京へとって返して、数台のトラックを苦面する。
、信徒が分乗し、合唱奏楽高らかに東海道を走って、東京へのりこむ。
マニ教東京遷座由来記を心ゆくまで記述している匿名人は、巷談社々長、サルトル
の妻子ではないか。田舎へ疎開したまま、まだ東京へ呼び迎えることもできなかった妻子たち。
「イイエ。東京です」