煩悩秘文書 / 林不忘

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地名一覧

駿河国

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の分け前を追って――大次郎は相模路へ。佐助は駿河国へ。利七は甲州へ。

足柄

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靉靆たる暮色が、山伏、大洞、足柄の峰つづきに押し罩もって、さざなみ雲のうえに、瘤のように肩

畝りを作って続く樹の海の向うに、大洞、足柄、山伏の山々――その山伏山のむこう側に、今はない田万里の廃墟が

籠坂峠

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都留郡である。この三つの国が、富士の裾の籠坂峠から一線に延びる連山の一ばん高いてっぺんに出会ったところが、この三国ヶ嶽

辰巳

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が上らないと見えた恋慕流しの宗七――じつは、辰巳の岡っ引として、朱総を預っては江戸に隠れもない捕物名人な

八丁堀

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「お前さん、八丁堀の旦那から、毎日のようにお迎いだったよ。なんでも、またあの

いま、八丁堀からたびたび使いが――と聞いて、宗七、人間が変ったように、活気

八丁堀の与力川俣伊予之進は、こういう宗七を知っているかして、その浮わつい

て、十手を預っている深川やぐら下の岡っ引宗七と、八丁堀の与力、川俣伊予之進の二人だった。

またその裏面は、いつからともなくあの八丁堀の与力、川俣伊予之進に見込まれて、十手を預かる御用聞きとなっては

都留郡

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、西、するがの国駿東郡、そして、北は甲斐の都留郡である。この三つの国が、富士の裾の籠坂峠から一線に延びる

追分

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三つの道へ別れて行く。その相良の城下はずれの追分には、何事もなかったように、上り下りの馬子唄と、馬の鈴の音

佐渡

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それで金を溜めて来たが、なあ与助、世の中あ佐渡の土だけでもなさそうだぜ。」

江戸

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山の行きずりに、こんな、玉をころがす声を聞こうたあ、江戸を出てこの方、おいらあ夢にも思わなかった。おお、何か数え

の池と、そして、そこに何を認めたのか、江戸の文珠屋佐吉と自ら名乗るその男は、ひた、ひた、と吸い寄せられる

を記して、今だにずっと滞在している三人づれの江戸の客というのは、

ありだという話のようだけれど、お父さまは、いったいいつ江戸へお発ちになるおつもりなのだろう。」

剣を取って江戸を風靡する弓削法外先生のひとり娘である。夜みちを怖いとは思わないが

「まあ! では、いよいよ江戸へ発ちますことに決まりましたんでございますか。」

高弟に預け、父娘師弟の三人づれ、そこはかと江戸を発って来たわけ。

の湯へ分け入って来たのだけれど、そういつまでも江戸の道場を空けておくわけにもいかない。

「は。石高二万八千石、江戸の上屋敷は、神田一番原、御火除地まえにござります。」

、流れ流れて間もなく、いずれは煩悩の溜り所、江戸へ入り込んだに相違ない。

「なんでも、江戸の武芸者だとかいうことだが。」

「ふん、江戸の武芸者か。へん! 江戸にゃあ、武芸者と犬の糞は、箒で掃く

「ふん、江戸の武芸者か。へん! 江戸にゃあ、武芸者と犬の糞は、箒で掃くほど転がってらあな。」

「江戸下谷、練塀小路、法外流剣法道場主、弓削法外の贈り物じゃ! ありがたく取っ

灯の艶めかしい、江戸の花街で聞く恋慕流しを、この深山の奥で――大次郎は耳を疑い

たとおり、へへへへへ、あのお約束をいいことにね、江戸へ出で、精ぜい女狂いをしておりやすうちに、とうとう旦那、三味線ひきの

は、昨夕登山のみぎり、この下の猿の湯にて、江戸女と覚しき見目うるわしき女子を見初め、この七年間、何ものにも眼を

ているはずの大次郎――七年会わないあいだに、すっかり江戸風の、立派な若ざむらいになった大次郎が、押っ取り刀で、見え隠れに一同の

「なあに、それまでに、今度は江戸で会わあ。娘は預けとくぜ。」

荼毘に付した。お骨を捧げて、今日は明日は江戸の道場へ帰ろうと思いながら、大次郎の傷の癒えも進捗ばかしくないので、

こんな化物のような顔になった拙者と、ともに、江戸へ帰らなければならないかと思うと、この山を出る気にはならない

は、辰巳の岡っ引として、朱総を預っては江戸に隠れもない捕物名人なので。

大次郎と千浪が、法外先生の遺骨を守って下山し、江戸へ帰って半月ほどしてからで。

この時から、江戸の巷に、二人の祖父江出羽守が彷徨することになった。

そして、それは江戸の街々に、秋も深まろうとする一夜だったが、大次郎は、風に捲か

自分は出羽守の一行に取りまかれてこの江戸の下屋敷へ送られて、そこで、ほかの多くの妾てかけとともに

、今から三月ほど前の月のない夜中に、この江戸の下やしきの寝所で、思いあまって出羽守に斬りつけ、混雑に紛れて屋敷を逃亡

――どころか、身分を隠しての逗留なので、江戸を出てから帰るまで、ああして白の弥四郎頭巾に、すっぽり面体を押し包ん

や町家の檐下で、寺社の縁などに雨露をしのいで江戸の町まちを当て途もなしにほっつき歩き、きょうこうしてはからずもお多喜の

互いたびたび苦杯を舐めさせられたことは、覚えがあろう。江戸に岡っ引なしとまで言われて――それが、先ごろより、またもや暴れ出した

七年ほど前から深夜の江戸を荒らし出した怪盗で、警戒の厳重な富豪と言われる家のみを襲い、

八百八丁の中央、川の両岸が江戸をまっぷたつに割って、江戸から何里、江戸へ何里という四方

中央、川の両岸が江戸をまっぷたつに割って、江戸から何里、江戸へ何里という四方の道程は、すべてここを基準に

が江戸をまっぷたつに割って、江戸から何里、江戸へ何里という四方の道程は、すべてここを基準にしている。八方

千々に思いを砕いた後、思いきって、こうして毎日江戸の町じゅうを、大次郎の影を求めて彷徨い歩いて来たのであった

! さてはこの、あの猿の湯の藤屋にいた江戸の武芸者の娘は、千浪と言うのかと、ひとり合点いた様子で、

この江戸に。

いま江戸を騒がせている煩悩夜盗なので――と言うのも、祖父江出羽守へ

江戸へ出て無職の日を送り、飢餓に迫った佐助は、とうていこの分で

いうところから、下男ばかり何人も置いているのだが、江戸というところは、何でも奇抜でさえあればいい、その風変りな点が

に、この伝馬町の文珠屋は、なかなか評判がよく、江戸へ出ればここときめている定連も、かなり尠くないのだった。

、その、旅で、お見そめなすった女ってなあ、この江戸のものでがしょうな。」

の声が町を流して、この、日暮れ近い伝馬町は、江戸の代表のように、あわただしいのだった。

毎日のように家を空けて、お姿を慕って、江戸の町々をお探し申しておりました。今日こうしてお目にかかること

何のために余と同じ服装をして、こうして江戸の町を彷徨しておるのか。余が誰であるか、そちは存じ

貴殿の煩悩に報ゆるに煩悩をもってせんと、江戸に潜んで、この機会を待ちもうけておったもの。また先般三国ヶ嶽の

これからあの討ち洩らした出羽を狙って、拙者はもう一度江戸の町をうろつくつもりだ。」

爾来自分は女色煩悩を追って、この江戸の色街で文字どおり恋慕流しの流れの生活を送ったままいまのお多喜と

麗らかな日で、吹く風も寒くなく、江戸の空には鳶が舞っていた。

当てもなく江戸の町を歩いたところで、いつまた祖父江出羽守に逢うともわからないし、

夢のような日のうちに、こうして江戸の町まちを、芸を売っているのだった。

「木曾の桟橋――駕籠飾り」の芸を売物に、江戸の町から町と、さまよい歩いている。弥四郎頭巾の異装と千浪の美貌と

出羽のいない江戸に、三人は用はないのだった。

大次郎と千浪は、小信を劬わって、また江戸への旅に――。

宗七とお多喜は、中仙道を廻って、これも江戸への恋慕流しの夫婦旅。

「何を言ってるんだ。江戸じゃあ煩悩小僧かもしれねえが、これからは四国詣での巡礼さん――それ

小田原町

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橋の前後、新場町と小田原町に、毎朝うお市場が立つ。

甲州

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―大次郎は相模路へ。佐助は駿河国へ。利七は甲州へ。

府中

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府中あたりの田舎浪士が、気楽な長逗留という触れ込みで、藤屋でも、この

下谷

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下谷練塀小路 法外流剣法道場主

円明流から分派して自流を樹て、江戸下谷は練塀小路に、天心法外流の町道場をひらいている弓削法外、柿いろ無地

暇を貰って三国ヶ嶽へ往ってきたい――下谷練塀小路の道場で、こういきなり大次郎が願い出た時、師の法外は

法外流のつかい手、下谷の小鬼と名を取った伴大次郎は、奇しくもこの田万里の出生だという

二十歳の伴大次郎は、二十七になり、こうして、江戸下谷練塀小路、弓削法外道場第一の剣の名誉として、今この思い出

た稀代の剛刀――ぐいと、背後ざまに落とし差した下谷の小鬼、伴大次郎、黒七子の裾を端折ると一拍子、ひょいと

「江戸下谷、練塀小路、法外流剣法道場主、弓削法外の贈り物じゃ! ありがたく取っ

三人を二十七にし、伴大次郎を法外流の名誉、下谷の小鬼に変えた。そして今は、あの、この三里下の山腹、あみだ

もう、伴大次郎は、伴大次郎ではなかった。下谷の小鬼だった。

下谷の練塀小路、今は主の変った法外流の道場で、門弟たちが

こうなると、下谷練塀小路の法外道場は淋れて往く一方。

来たんだが、その節の話じゃあ、なんでも下谷の練塀小路、法外流とかいう剣術の道場にいると聞いたが―

この大次郎、下谷を出て以来、今までここに潜んで何をしていたのか―

「あの、下谷をお出になってから隠れていらしったお家へ、わたくしをお連れ

「さよう。拙者が下谷を追ん出てからの住いじゃ。では、こうまいられよ。」

とかいう噂だ。道場へ報せてやらざあなるめえ。下谷の練塀小路だ。由来い。」

「大次は、下谷の道場にいるとかいう噂だ。道場へ報せてやらざあなるめえ。

「うん、ちょっと訳があってな。下谷の練塀小路の法外流の道場まで往って来る。由公を伴れて行くから

をもうすこしよく話しでもしたら、彼はこうして下谷へ出向かずに、この事件だけは、ここで手っ取り早く結末がついたで

「うむ、よく来てくれた。いや、下谷の道場を出てから、拙者はずっとここに身を潜ませておった

「それでは、今日、下谷へお出かけになるのは、お取り止めになったんで。」

「下谷へ?」

「お忘れでございますか。あの娘と若造は、下谷練塀小路の法外流道場にいるとかとのことで、殿様は今日そちら

と、先に立って今来たほうへ引っ返し、下谷を指して急ぎはじめた。

やはり下谷を指して急いでいる二人伴れがあった。それはあの、女たらし恋慕流し

と伴れ立って、その小信の弟伴大次郎のいるはずの下谷の道場へ、小信のことを知らせようと、出かけて来たのである

「いえ、あの、気の違った女の知り合いが、下谷のほうの道場にいるので、それが、ひょんなことからあっしの知り人で

話しながら歩く道は早い。もういつの間にか、下谷は練塀小路、法外流道場のそばまで来ている。

をはじめ、宗七も伊予之進も、大次郎の影も、その下谷練塀小路の横町にはなくて、暮れに近い日脚が白っぽい道に弱々しい

法外流の名誉、下谷の小鬼といわれた伴大次郎である。いきなり真向から女髪兼安を躍ら

深川

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で、ここにこうしておりますのは、吉原から遠く深川へかけて、おんなの子を泣かせる恋慕流しの宗七さま、へへへへへ。

にこう引っ張られるような気もちで、気がついた時あ深川の家を出て、この浴衣のまんま、ふらふら歩いて来ておりやした

裾を引き上げた伴大次郎と、今は深川の恋慕流し宗七、左右から笠を挾んで立った。

ここ深川、富ヶ岡八幡の社前に、おごそかに柏手を打ってしきりに何ごとか念じて

ますけれど、ただ一日も早くあたしという女房と、この深川の家を思い出して、帰って来ますようにお願いいたします。遠くへ

、汗と砂ほこりにまみれてはいるが、狂女は、この深川の羽織衆の中にもそうたんとはあるまいと思われる美人で、

、女たらし恋慕流しの名に隠れて、十手を預っている深川やぐら下の岡っ引宗七と、八丁堀の与力、川俣伊予之進の二人だった。

この、いきなり御用の声と一緒に、恋慕流しこと深川やぐら下の岡っ引宗七が、やにわに外へ向かって駈け出したので、

叫んだのは、恋慕流し宗七の妻お多喜だ。深川やぐら下の小意気な宗七の住居で。

深川やぐら下を少し富ヶ岡八幡に寄ったほうの横町で、稲荷の祠の前

神田

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「は。石高二万八千石、江戸の上屋敷は、神田一番原、御火除地まえにござります。」

は、橋をわたって室町一丁目、二丁目、本町――神田のほうへ。

日本橋を神田のほうへ渡って、魚市場へ曲がろうとする角のところに、やくざ浪人と

日本橋を神田から来て、京橋のほうへ渡ろうとする橋の袂だった。

日本橋

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一度などは、日本橋の質屋へはいった時、文晁の屏風いっぱいにこの煩悩の二字が殴り

お江戸の繁華は、ここ日本橋にひとつに集まって。

日本橋と言えば魚河岸。

魚がしといえば日本橋。

なまぐさい風が橋を撫でて、この二十七間、日本橋の南の袂は高札場、ちょうど蔵屋敷、砥石店の前である。

「そこへ、今日、日本橋の袂で、おれの高札が建っているのを見て来た。それ

与助がそこまで言いかけた刹那、あの、日本橋詰の高札場から、千浪と白覆面の後を尾けて行った由公―

日本橋を神田のほうへ渡って、魚市場へ曲がろうとする角のところに、やくざ

日本橋を神田から来て、京橋のほうへ渡ろうとする橋の袂だった。

手で、この煩悩小僧をお繩にしたいものだ。日本橋には高札が建ったが、いや、もう、江戸中えらい評判で、今

そう言えば先刻日本橋の高札場から、千浪を連れ去ったのは、あれは祖父江出羽守だったの

夕方に近いとは言え、暖かい小春日和で、今日も日本橋の袂など、ああして人が出盛ったくらい、冬にしては暖か

京橋

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日本橋を神田から来て、京橋のほうへ渡ろうとする橋の袂だった。