長命寺 駿府 浅草寺 関西 江戸 お台場 笠森稲荷 八丁堀 下谷 品川 蔵前 日本橋 住吉 浅草 向島

、二、三日した探梅日和に、牛の御前の長命寺へ代々の墓詣りにとだけ言い遺して、丁稚に菓子折を持たせたまま瓦町は

「――駿府へずらかってる喜三の奴が、江戸の真中へ面あ出すわけもあるめえ。

初めての推参に長居は失礼と、幽かに鳴り渡る浅草寺の鐘の音に、初めて驚いたように伝二郎はそこそこに暇を告げた

関西生れの養母は店の誰彼となくこう話し合っては、真からおかしそうに笑い崩れ

だけは何をおいても欠かさないのが、そのころの江戸の人の心意気だった。で、海老床の若い者や藤吉部屋の勘弁勘

ちょっとでも江戸を出りゃあ、もう食う物はありませんや、という見得半分の意地っ張り

「――駿府へずらかってる喜三の奴が、江戸の真中へ面あ出すわけもあるめえ。待てよ、こりゃあしょっとすると解ら

つ前の寅の日にわあってんで出かけやしたがね、お台場へ行き着くころにゃ、土砂降りになってたってまさあ――ねえ、親方、今日

同勢二十四、五人、わいわい言いながら笠森稲荷の前から同朋町は水野大監物の上屋敷を通って、田町の往還筋へ

「お馴染の八丁堀ですい。」

河内屋という、下谷の酒問屋の楽隠居が有っているもので、木口も古く屋台も歪んだ

を中心に大供子供を駆り集め遅蒔きながら、吉例により今日は品川へ潮干狩りにと洒落こんだのである。時候のかわり目に当てられた

と顔を出したものの、元来伝二郎としては品川くんだりまでうまくもない酒を呑みに来るよりは、近所の碁会所のように

で呑めない地酒に時間を消し、すっかり暗くなってから、品川の廓街へべつべつの素見客のような顔をして銜え楊枝で流れ込ん

「清水屋って、あの蔵前の――。」

「さいでげすよ、あの蔵前の人形問屋の――。」

はありませんや、という見得半分の意地っ張りから、蔵前人形問屋の若主人清水屋伝二郎は、前へ並んだ小皿には箸一

らしくごまかしておいて、天にも昇る思いで伝二郎は蔵前の自宅へ取って返し、番頭を口車に乗せて三百両の金を拵え

というところから、わざと遅れた四月の五日に、日本橋十軒店の人形店の若い連中が、書入時の、五月市の前祝い

、水溜りに取られまいと千鳥脚を踏み締めながら、ただひとり住吉町を玄冶店へ切れて長谷川町へ出るころには、通行人が振り返って

初めての推参に長居は失礼と、幽かに鳴り渡る浅草寺の鐘の音に、初めて驚いたように伝二郎はそこそこに暇を

も伴れずに、月並みな発句でも案じながら、彼が向島の土手を寺島村へ辿る日がいつからともなく繁くなった。相手