神秘昆虫館 / 国枝史郎

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隅田

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ているのだろう? 世間の人達は敬称して、隅田のご前と云っている。葵の紋服を着ている以上、将軍家の連枝

隅田のご前を前に置き、端然と坐っている桔梗様と来ては、

「遅いの」と不意に隅田のご前は、独り言のように呟いた。それが桔梗様の気にかかっ

「ああ待ち人かな、泥棒さん達だよ」隅田のご前は道化出した。「私はな、大変な大泥棒だ。で

「何?」と云うと隅田のご前は、いくらか驚いた様子があった。「それでは何か

そうしてこの声が次第に近付き、隅田のご前の屋敷の前で、にわかにプッツリと切れてしまい、つづいて幽か

まず隅田のご前様が「来たな」と云うと立ち上がり、それから桔梗様へ

た階段である。下り切った所に池があった。隅田の川水を取り入れて、作ったところの池らしい。小さい入江! こう云った

随分変な人間に、一時に紹介されたものさ。隅田のご前という凄いような人物や、七人の異様な無頼漢達に。

しまった。「葵の紋服を召していた。では隅田のご前という人物は、高貴な身分に相違ない。それから桔梗様が

おられるようで、遊びにおいでなさるがよい」――隅田のご前という人が、云ったことなども思い出した。

差しかかった所が大川端で、隅田の屋敷の方へ、急ぎ足に歩き出した。夕暮れ時の美しさ、大川の

今日行っては、あんまり俺がオッチョコチョイに見える。大人物らしい隅田のご前にも、裏を見られないものでもない。それにさ、

のだろう? どこへ運ばれて行ったのだろう? 隅田のご前というような、あんな立派な人物によって、城廓めいた宏大

夕方叔父の屋敷から出て、隅田の流れを見ていると、突然背後から猿轡を噛まされ、おりから走って

華子は、いよいよ声を優しくしたが、「たとえばあなたを隅田の屋敷から、ここへお連れして来ましたのも、そうしてあなた

隅田のご前を前後に守り、七福神組の連中が、目立たぬ旅の装いを

二百人あまりの同勢が、無関心な様子はとりながらも、隅田のご前を警護して、先になったり後になったり、歩いて行く

隅田のご前は例によって、悠々寛々たる態度をもって、弁天松代を

ただし一旦家を出て、隅田のご前をお訪ねした時、計らずもそれを知ることが出来た

隅田のご前がこう云ったからである。

隅田のご前の部下の者や、七福神組が走り廻わり、それの準備をやっ

指揮しているのは、隅田のご前で、昆虫館の建物の前へ、牀几を出して腰かけている

「兄ごお前さんは不賛成だろうな」こう云ったのは隅田のご前。

ご夫婦の関係は、私には不思議でならないよ」隅田のご前が云ったのである。

「どっちみち和睦をした方がいいよ」隅田のご前が不意に云った。

隅田のご前は笑ったが、「和戦両様に備えたのさ。浮世は万事

、正統の血を引いている人物であり、そうして隅田のご前なる人は、同じく妾腹の血を引いた人で、幕府にとっ

隅田のご前に至っては、依然隅田川の岸へ住み何やら大きな企てに、

伊豆

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云ったのは頬髯のある武士で、「なかったら今度は伊豆の方へ行こう」

玉川

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の武士達、トットットッと、走り出したが、見当違いの玉川の方へ、駈け去ってやがて見えなくなった。

川崎

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川崎の宿まで来た時である。

江戸

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話し出した。「と云うのは、他でもない、江戸の四方五十里の内に、昆虫館という建物があり、永生の蝶と云われ

「云ったではないか、江戸を中心に、五十里以内の所にあると」

一まず関宿へ帰り、角屋の安否を尋ねて見よう。それから江戸へ帰るとしよう。だが待てよ」と小一郎は、吉次の顔をつくづくと

女馬子が手綱を引き、三浦半島の野の路を、江戸の方へ向かって辿っていた。

「それでは江戸までお送りします」

「江戸までお送りくださるとして、一人で帰られるのは寂しかろうに」小一郎は今度

「ははあさようで、それはそれは、しかし拙者は江戸へ帰れば、父の邸へ入るつもりで」

ものである。そこで改めて云って見た。「いやいや拙者江戸へ帰っても、父の邸へは入りますまい。一戸を借り受け所帯を

音ばかりが響き渡る。二人ながら今は黙ってしまった。江戸へ江戸へと歩いて行く。が、このまま江戸入りをしたら、奇も

が響き渡る。二人ながら今は黙ってしまった。江戸へ江戸へと歩いて行く。が、このまま江戸入りをしたら、奇もなければ

春がやって来て春が去り、江戸の町々は初夏となった。

」ここでウンと威張ったが、「その華子様仰せらく『江戸を中心に五十里の地点、そこに住んでいた永生の蝶、その一匹

、そこに住んでいた永生の蝶、その一匹が江戸へ入った』――そこで探しにかかったところ、目付かりましたよ、

、美しい声の桔梗様が、山を下ってついこの頃、江戸へはいったを知らないと見える」

た。と、カーッと血が湧いた。「桔梗様が江戸にいると云う。本当か知ら? いるなら是非とも逢いたいものだ。どう

獣だの、片輪者などと住んでいるよりはな。江戸へ来た方がずっといい。……と云って茫然遊んでいたでは

。『俺は一人で研究したい。娘よ、お前は江戸へ行け! 人間の世を見て来るがいい』こう云って妾を山

いい』こう云って妾を山から出し、人を付けて江戸へ送ってくれました」こう桔梗様が云ったこと。「その節父が

通る人が一杯である。物売りの声々が充ちている。江戸の夕暮れは活気がある。

 鮫洲の宿までかかった時――一挺の駕籠が江戸の方から、飛ぶように走ってやって来て、小一郎の傍を駈け抜けて

と、その時江戸の方から、一つの掛け声が聞こえて来た。「エッサ、エッサ、エッサ

ございます。……所は海岸、芹沢の郷、……江戸の中ではございません。……建てたお方は一ツ橋様! そう

あなたが、三浦三崎の、木精の森から下られて、江戸へおいでになりました事を、探って知ったのも妾でございます

でも見える、……だからさ、今度山を下り、江戸へ入り込んだというものさ」老婦人はこんなことを云い出した。

の鹿毛である。三浦三崎の実家から、小一郎を乗せて江戸へ出て、そのまま小一郎の屋敷の裏で、飼われていたところの

神奈川

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「神奈川の宿から海の方へ、ずっと突き出た芹沢の郷、そこまで近道を走っ

「桔梗様をさらった駕籠の姿を、やっと神奈川の宿外で目付け、後を追っかけてここまでは来たが、こんな不思議な建物

秩父

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のであろうが、この頃小一郎と君江とは、例の秩父の中腹を、上へ上へと辿っていた。

やはり秩父の山中の、桐窪が一行の行く先らしい。山尼の居場所が目的地のよう

が一筋流れていて、パッパッと飛沫をあげている。秩父名物の猿の群が、枝から枝へと飛び移り、二人を見ながら奇声を

ているばかりで、その他の無数の山尼達は、秩父の山にはいなかった。昆虫館をさして馳せ去ったのである。

今こそ秩父の山中にいるが、以前には信州や上州や、美濃や飛騨にもい

一ツ橋

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。さあさあ早く追っかけよう」大岩の向こうから声がした。一ツ橋の武士達が、そこに五、六人いるようであった。

華子の乗った山駕籠を守り、一ツ橋の武士達が、四、五人下って来るのであった。

深川

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ここは深川の、桔梗茶屋の、その奥まった一室である。一人になった阪東小篠

歩ほど前へ進み出たが、「尾行けて参った、深川からな」

ここは深川上の橋附近の、中洲の渡しに程近い地点で、そこにささやかな町道場

麹町

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彼の屋敷は麹町にあった。そこへ帰って来た小一郎は、意外な話を聞いた

お茶の水

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ある夜一式小一郎は、お茶の水の辺を歩いていた。と突然七、八人の武士が、お

た。「永生の蝶を探しているのだ。この前お茶の水で襲われた時、おおかたそうだろうと思ったのだ。今夜は懐中へ

「先夜お茶の水の往来で、拙者を襲ったのも貴殿の筈だ」

浅草

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そこでその頃有名の、浅草にいる刺青師の、蔦源の店へ出かけて行き、刺青を彫って

「さっき浅草で拾ったのは、これも桔梗様の持ち物? ※瑁の櫛へ

品川

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来た所が品川の海岸で、この頃はすっかり日が暮れて、月が真ん円く空へ

隅田川

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ちょうどこの頃のことである。大川の名が隅田川と変わり、向こうの岸は三囲社、こっちの岸は金竜山、その金竜

何か帯から出そうとした時、隅田川の方から声がした。

のはいいけれど、筏船を作って帆を上げて、隅田川を上へ溯って、大きな屋敷の水門から、屋敷へ入り込もうとしたか

隅田のご前に至っては、依然隅田川の岸へ住み何やら大きな企てに、専念したということである。