銅銭会事変 / 国枝史郎
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寝静まっていた。家々がまるで廃墟のように見えた。隅田に添って両国の方へ歩いた。一方は大河一方は家並、その家並が
「河」に置き代えよう。「春の河終日のたりのたり哉」まさに隅田がそうであった。おりから水は上げ潮で河幅一杯に満々と、妊婦の
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が真相であった。途中で悠々一泊し、その翌日三崎へ着いた。半漁半農の三崎の宿は、人情も厚ければ風景もよかった
悠々一泊し、その翌日三崎へ着いた。半漁半農の三崎の宿は、人情も厚ければ風景もよかった。小松屋というのへ宿まる
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梅が散り桜が咲いた。江戸は紅霞に埋ずもれてしまった。鐘は上野か浅草か。紅霞
こんな形容は既に古い。「鐘一つ売れぬ日はなし江戸の春」耽溺詩人其角の句、まだこの方が精彩がある。とまれ江戸
詩人其角の句、まだこの方が精彩がある。とまれ江戸は湧き立っていた。人の葬式にさえ立ち騒ぐ、お祭りずきの江戸っ子であった
空の吟嚢を胸に抱き、弓之助は江戸へ引っ返した。
叔父の家を出た弓之助は、寂然と更けた深夜の江戸を屋敷の方へ帰って行った。考えざるを得なかった。
ふと弓之助は壊しそうにいった。「江戸にはいないということだが」
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微行で花見に行った、その帰り路のことであった。本郷の通りへ差しかかった。忽ち小柄が飛んで来た。が、幸い駕籠へ中っ
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彼の屋敷は本所にあった。
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った。初鰹一尾に一両を投じた。上野山下、浅草境内、両国広小路、芝の久保町、こういう盛り場が繁昌した。吉原、品川、千住、新宿
いつも決まって媾曳をする、両国広小路を横へ逸れた、半太夫茶屋へ足を向けた。
いた。家々がまるで廃墟のように見えた。隅田に添って両国の方へ歩いた。一方は大河一方は家並、その家並が一所切れてこんもりとし
喜介は門を飛び出した。お色は両国を渡って行った。「春の海終日のたりのたり哉」……「海」を「河」に置き
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神田を過ぎて下谷へ出た。朧月が空にかかっていた。四辺が白絹でも張っ
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、こういう盛り場が繁昌した。吉原、品川、千住、新宿、こういう悪所が繋昌した。で悪人が跋扈した。
さんざっぱら可愛がったそのあげくには、千住か、品川か、新宿で、稼いで貰わなけりゃあならねえかも知れねえ。だがマアそいつは
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久保町、こういう盛り場が繁昌した。吉原、品川、千住、新宿、こういう悪所が繋昌した。で悪人が跋扈した。
も飽きっぽいんで、さんざっぱら可愛がったそのあげくには、千住か、品川か、新宿で、稼いで貰わなけりゃあならねえかも知れねえ
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芝の久保町、こういう盛り場が繁昌した。吉原、品川、千住、新宿、こういう悪所が繋昌した。で悪人が跋扈し
ぐらいはやろうってものさ、さてそこでお前さんだが、品川から駕籠に乗んなすった時おりから深夜、女身一人、出歩こうとは大胆だが
んで、さんざっぱら可愛がったそのあげくには、千住か、品川か、新宿で、稼いで貰わなけりゃあならねえかも知れねえ。だが
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耽った。初鰹一尾に一両を投じた。上野山下、浅草境内、両国広小路、芝の久保町、こういう盛り場が繁昌した。吉原
は紅霞に埋ずもれてしまった。鐘は上野か浅草か。紅霞の中からボーンと響く。こんな形容は既に古い。「鐘
別れ方もいいだろう。ところがお前は娘とはいえ、浅草で名高い銀杏茶屋のお色、一枚絵にさえ描かれた女だ。
そこは浅草馬道であった。
数間を隔てて後を追った。浅草河岸を花川戸の方へ、引っ返さざるを得なかった。女はズンズン歩いて
ではお話しいたします。どうぞお聞きくださいまし。あの妾は浅草の、銀杏茶屋のお色でございます」
と、闇から生まれたように、浅草花川戸の一所に、十人の人影が現われた。一人の人間を真ん中に包み
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も奢侈に耽った。初鰹一尾に一両を投じた。上野山下、浅草境内、両国広小路、芝の久保町、こういう盛り場が繁昌し
。江戸は紅霞に埋ずもれてしまった。鐘は上野か浅草か。紅霞の中からボーンと響く。こんな形容は既に古い。
足を向けた。花の盛りは過ぎていたが、上野山下は景気立っていた。茶屋女が美しいので、近ごろ評判の一
ある日弓之助は屋敷を出た。上野の方へ足を向けた。花の盛りは過ぎていたが、上野
そこで弓之助は昨日、上野山下一葉茶屋で、怪しい振る舞いをした町人のことと、老武士のこと
「先ほど、私お話し致しました、上野山下一葉茶屋で、一人の町人の行なった茶椀芸についてでございます
日ほど以前のことであった。田沼は将軍家をそそのかし、上野へ微行で花見に行った、その帰り路のことであった。本郷の通り
弓之助は上野へ差しかかった。
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神田を過ぎて下谷へ出た。朧月が空にかかっていた。四辺が
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犬が吠えていた。人の子一人通らなかった。隅田川から仄白い物が、一団ムラムラと飛び上がった。が、すぐ水面へ消えて
た。「河なものかまるで溜だわ……!」隅田川の風景も、もう彼女には他人であった。「きっと河は深いん
前後に黒々と、数百の人数が屯ろしていた。隅田川には人を乗せた、無数の小舟が浮かんでいた。露路という
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両国橋の乞食の群
「何んだか眼の前が真っ暗になったわ」両国橋へ差しかかった。橋の欄干へ身をもたせた。「河なものか
近習と引き違いにはいって来たのは、両国橋にいた老人であった。
両国橋での出来事を、かいつまんで京師殿は物語った。