今川小路 小石川 下谷 東京 神保町 お茶の水 浅草

出でたまへしを。母様いたく喜びたまひて、幸ひ近き今川小路に、相応しき家ありしを。これも母様の店請となりて借り受けたま

。そこここ頼みありきたまひしが、二月ほどありて小石川なる、ある製薬会社に、出勤したまふ事となりぬ。

さていかにしてたつき求めたまひけむ。下谷徒士町の、今にて思へば棟割長屋なるに落ちつきたまひつ。我を世の父

ツなると。お心強くも背後に聞きなしたまひて、我を東京へ携へ出でたまひたるは、我七ツのほどの事なりき。

を子を。神はあはれとおぼさずや、中川様さへ東京に在りたまはぬを待つとせし間に。いつしか秋の風たち

訝しみて駈付けたまひたる頃は、方様の影ははや北神保町の辻に消えて、我はその人の書斎の跡に、正体もなく

にそこと分らねど、やがて万世橋を左に見て、お茶の水の右に出でしを、聞けば本郷弓町とやらむ。一人ものの老媼

我が方に年久しく事へし下女の梅といふが、浅草の西仲町に嫁ぎゐたるをたよりゆきて。これは我がある方様と、契り