熊野神社 品川 向島 隅田川

懐かしい何の思い出もない。坂下もまた絵双紙屋の側の熊野神社、それと向い合った柳の木に軒燈の隠れた小さな煙草屋のほかはやはり

に従って日一日と何かしら珍しい物を発見した。熊野神社の大鳥居も見えた。三吉座という小芝居の白壁に幾筋かの贔負幟が

私たちの遊び場となったのは熊野神社の境内と柳屋という煙草屋の店先とであった。柳屋の店にはいつ

の中心になっていた。私はもう汗みずくになって熊野神社の鳥居を廻って鬼ごっこをする金ちゃんに従って行こうとはしないで、

て行く。夏が来た夏が来た。その夏の熊野神社の祭礼も忘れられない思い出の一頁を占めねばならぬ。

遠くまで昼の光の中に連なっている。その果てに品川の海が真蒼に輝いていた。今まで思いもかけなかった眼新しい

「エエ、町内のお花見で皆で向島に行くの。だから坊ちゃんはまた明日遊びにおいで」

あった。そこは鉄道馬車に乗って三時間もかかって行く隅田川の辺りで一町内すっかり芸者屋で、芸者の子になるとおいしい物