続俳諧師 ――文太郎の死―― / 高浜虚子
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本郷から澁谷迄は平常でも遠い路を此日は二倍にも三倍に
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ましたのね。餘所の手前もある事ですから、殊に大阪の兄はさういふ方には喧しい方ですから……」と言つた。
「大阪の兄さんが今夜一寸歸つていらつしやるさうだ」
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春三郎は或日貸家札を眺めて神田錦町の裏通に立つた。貸家札には四疊半に三疊に二疊と
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の佐治文太郎の上京が事實となつて現はれて來た。上野の停車場に文太郎を迎へに行つた春三郎は自分の兄が斯く迄に
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文太郎は東京の變化が珍らしいので、二三箇處を面白さうに見物した後春
「春三郎、昨日の料理は旨かつた。流石東京ぢや。今日も一つ何處かで食らうか」と文太郎は今の貸下宿
「流石に東京だ、牛肉も旨い」と舌を鳴らして食つた。それから國許の
「嫂さんはあの通り餘り健康な方でないから第一東京へ來るのが厭らしいが、併しもう觀念して居るさ」と文太郎は
忠告を聞いた時は一時大いに落膽した。俄に東京が恐ろしくなり、前途が暗黒になり、自分のやうなものが馬車や人力車
文太郎は早速其日の夜汽車で國へ立つた。東京へ來た許りの文太郎は才智も學問も自分より勝れたと信ずる春三郎
其であつた。春三郎は其を見て嘗て文太郎が東京に來た時分自分と一緒に牛肉屋へ上つた時此と同じやうな
品位を保つだけのしとやかさは失はなかつた。處が東京に來て俄にこの煩劇な下等な――お金は何の爲めに
を覺えた。彼の事業を經營する以前は此の東京で十圓の金の融通も容易ではなかつた。たとひ一時
病院に這入つた事を言つたのか、國を出て東京へ來た事を言つたのかどちらであらうかと春三郎は一寸判じ
「それとも東京の事ですか」と春三郎は重ねて聞いたが文太郎はそれにも
横はつて、妻子眷族に圍繞せられ、國手を東京より呼び寄せて、風清く水澄める畔に病を養ふ人は死ぬる壽命
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一寸歸京萬事御相談致置度存候。明夜遲く新橋著の豫定。萬事拜眉』とあつた。
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、春三郎は暫く躊躇してゐたが遂に同行し、小川町通の呉服屋の店前に、例のつんつるてんの書生と腹の大きい女と