闖入者 / 大阪圭吉
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南室へ行けば充分見る事の出来る富士の風景を、わざわざ箱根山しか見えない東室にとじこもって写生していたと云うのだ。これは確か
ていた。そしてその木立の彼方には、疑いもなく箱根山の一団がうねうねと横たわっていた。
空は美しい夕日に映えて、彼方の箱根山は、今日もまた薄霧の帳に隠れている。
見ればいつのまにか、箱根山を包んだ薄霧の帳の上へ、このような方角に見ゆべきもない
た狭霧の隙間を通して、恰度主任の小鼻のような箱根山が、薄暗の中にむッつり眠っているだけで、もう富士の姿は消えた
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富士山の北麓、吉田町から南へ一里の裾野の山中に、誰れが建てたのか一
号の風景カンバスに、直接描法の荒いタッチで描かれた富士山の写生画であるが、カンバスの中央に大きく薄紫の富士山が、上段の夕空
富士山の写生画であるが、カンバスの中央に大きく薄紫の富士山が、上段の夕空を背景にクッキリと聳え立ち、下段に目前五、六十米突
。ところが度々云うようにこの岳陰荘の位置は、富士山の北麓であり、二階に於ける室の配置は、東南二室に分れ
、その東側に窓の開いた東室にとじこもって夕暮時の富士山をスケッチしたと云うのだ。早い話が川口亜太郎は、東方の景色しか
しか見えない東の室にいて、南方に見える筈の富士山を写生していたのだ。つまり直ぐ隣りの南室へ行けば充分見る事
「いや、判りました……つまり、富士山は、不二さん、に通ず……なんですね」
…そうだ、全く今になって考えてみれば、あの富士山の絵も、やはり南室で描かれたものではなく、最初の発見通り東室
あることを第三者に知らせるために、あのような富士山の絵を描き残した、と解釈するにしては、余りにもあの絵
妻の名前を表わすために描いた絵であったなら、富士山ひとつで充分だ。あのようないくつかの余分な要素を、しかもあれだけ
声は顫えている。「あんなところに……むウ、富士山が出て来た!……こ、こりゃあ妙だ?」
。つまりこりゃあ、入日を受けて霧の上へ写った、富士山の影ですね」
私が、最初から睨んでいた通り、不二さんは、富士山に、通ずる……ですな……ふム、確かにいい。実に、完全
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、死んだ川口は一行が白亭夫妻に送られて今朝東京を発った時から、なにか妙に腑に落ちぬような顔をし
続いて亜太郎の妻不二は、金剛と同じように川口が東京を出た時からの憂鬱について語ったが、夫の事であり
従った金剛蜻治は、警察署のある町まで来ると、昨日東京を発った時に見送ってくれた別荘主の津田白亭に、まだ礼状
たので、早速貸してやりました。けれども、昨日東京を出発の際、私共夫婦で見送りに出たんですが、てっきり二人
そしてその翌日、東京へ解剖に送られる亜太郎の屍体と一緒に、津田白亭と川口不二は
次の日の午後、来合わせた警官から、東京に於ける亜太郎の解剖の結果を聞かされた。けれどもそれは、先に
昨日の家宅捜査で見事に物的証拠を挙げた彼は、東京に於ける亜太郎の葬儀が済み次第、不二を検挙する旨を満足げに話し
の亜太郎も、きっとそれを経験したのです。で、東京を出る時に、見送りに来た白亭氏から、妙な注意をさ
。するとその瞬間、川口氏の頭の中にその朝東京を出るときに白亭氏から与えられた妙な注意の言葉が、ふと