花束の虫 / 大阪圭吉
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列車内はスチームの熱気でムッとする程の暖さだった。銚子に着いたのが午後の一時過ぎ。東京から銚子迄にさえ相当距離がある
た。銚子に着いたのが午後の一時過ぎ。東京から銚子迄にさえ相当距離がある上に、銚子で汽車を降りてから屏風浦付近の小さな町
過ぎ。東京から銚子迄にさえ相当距離がある上に、銚子で汽車を降りてから屏風浦付近の小さな町迄の間がこれ又案外の交通
すると、その三人の客人達は、今日の何時頃に銚子を発れたのですか?」
――銚子から帰って二時間もしない内に、新しい書類の整理をすっかり秋田に任せ
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その字の抜けているのは、勿論、あの、踊りのバルセロナの事だ。そして、もうひとつの方は、マーチ・フォックストロットだ――ところ
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屏風浦を引上げて、大月と秘書の秋田が丸の内の事務所へ帰ったのは、その日の午後二時過ぎであった。
若い美しい一人のダンサーを連れ出すと、その儘自動車を飛ばして丸の内の事務所へ帰って来た。
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。もともと東京の人で、数ヶ月前から健康を害した為房総の屏風浦にあるささやかな海岸の別荘へ移って転地療養をしてはいた
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直な秘書の秋田を同伴して、取るものも不取敢大急ぎで両国駅から銚子行の列車に乗り込んだ。
宛名にしてね。――今頃は屹度岸田の奥さん、大騒ぎで両国駅へ、チッキならぬワタリをつけているだろうよ。只、君は、いつの間にこ
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で、歳若いながらも仕事に掛けては実直な秘書の秋田を同伴して、取るものも不取敢大急ぎで両国駅から銚子行の列車
案外の交通不便と来ている。だから大月と秘書の秋田が寂しい町外れの岸田家の別荘へ着いた時には、もうとっくに午後
軈てカイゼル氏の案内で、間もなく大月と秋田は、ささやかなサロンで比露子夫人と対座した。
大月は秘書の秋田を顧みながら、内心の亢奮を押隠すかの様な口調で静かに言っ
へ強くひかれて了ったらしい大月と、それから秘書の秋田は、間もなく先程の証人の男に案内されて、見晴の良い
こそ小さいが、明かに男の靴跡としか見られない。秋田は、大月の言葉を求める様にして顔を上げた。すると大月
秋田も証人も、大月の意外な言葉に吃驚して了った。二人は言い合わし
再び靴跡の上を、アテもなく歩き始めた。秘書の秋田は大月の思索を邪魔しないつもりか、それとももうそんな仕種に飽き
そして間もなく大月は、秋田と証人を誘って、丘を降りて行った。
秋田は、ふと、先程丘の上で大月の下した犯人は左利きであると
そして間もなく、大月、秋田、比露子夫人の三人は、銚子駅から東京行の列車に乗り込んだ。
なるとか、詳しい話を聞かせて呉れないので、秋田は内心軽い不満と不審に堪えられなかった――。
屏風浦を引上げて、大月と秘書の秋田が丸の内の事務所へ帰ったのは、その日の午後二時過ぎであっ
見た。が、それにも不拘大月は、もう一度秋田を吃驚させる様な不審な態度に出た。全く、それは奇妙な
にそろそろ不審を抱かせられてうんざりしていた秘書の秋田は、それでも極めて従順に、どの仕事から調べかかるか、と言う様
て二時間もしない内に、新しい書類の整理をすっかり秋田に任せた大月は、築地の瑪瑙座の事務所を呼び出して、暫く受話器を
いつもならばもう仕事を終って帰っている秋田も、流石に今日は居残っていた。そして、不意に若い女などを
事には一向に無頓着らしく、帰って来た大月は、秋田に一寸微笑して見せただけで、直ぐ隣室へその女を連れ込むと
そして、おお、呆然として了った秋田の耳へ、軈て、狂躁なジャズの音が、軽いステップの音と一緒
こんな態度に出会ったのは、今日が初めてであった。秋田はもう書類の整理どころではなくなった。ともすると、鼻の先が
やっと茲迄考えついた秋田は、ふと気付くと、もうどうやら隣室の騒ぎも済んだらしく、いつの
大月は、それを両手で押えつける様にして、それから秋田の方を振向きながら、
そこで秋田は、眼を白黒させながら、思わず一歩身を引いた。
は、媚を含んだ視線をチラッと大月へ投げると、秋田には見向きもしないで、到頭その儘出て行って了った。
秋田はどうにも堪らなくなって、到頭大月の側へ腰掛けた。そして、
秋田は、図星を指されて急に顔を赤らめた。が、軈て仕方なさそう
、一枚の紙片を秋田の前に拡げて見せた。秋田は、それを一寸見ていたが、直ぐに、幾分得意然とし
大月はそう言って、一枚の紙片を秋田の前に拡げて見せた。秋田は、それを一寸見ていたが
秋田は思わず急き込んで訊ねた。
――秋田は、蒼くなって了った。
自分の鋭い不意打の決断に、すっかり魂消て了った秋田の顔を見ながら、ニコニコ微笑していた大月は、軈て、煙草の
た時に、その右手に提げた品を一眼見た秋田は、思わずあっと叫んで立上って了った。
引挙げた時に、比露子夫人の唯一の手荷物であり、秋田自身で銚子駅迄携えてやった、あの派手な市松模様のスーツ・ケースで
秋田が声を挙げたも道理、その品と言うのは、今朝三人が
秋田が訊ねた。大月は煙草に火を点けて、
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済まされて係官はひとまず引挙げ屍体は事件の性質上一応千葉医大の解剖室へ運ばれた事。等々を手短かに語り聞かせて呉れた。
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(例)以前飯田橋舞踏場
して一人の身寄をも持たなかった代りに、以前飯田橋舞踏場でダンサーをしていたと言う美しい比露子夫人とたった二人で充分
、思い出し給え。夫人は、岸田直介との結婚前に、飯田橋舞踏場のダンサーをしていたんだぜ。その比露子夫人が、仮令
回りをしたわけさ。――が、幸いにも、飯田橋華かなりし頃の比露子夫人の朋輩であったと言う、先程のあのモダンガール
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ひたりながら、相当に派手な生活を営んでいた。もともと東京の人で、数ヶ月前から健康を害した為房総の屏風浦にあるささやかな
岸田直介――と言うのは、最近東京に於て結成された瑪瑙座と言う新しい劇団の出資者で、大月と
さだった。銚子に着いたのが午後の一時過ぎ。東京から銚子迄にさえ相当距離がある上に、銚子で汽車を降りてから
脚本家の上杉逸二さんですが、この方は確か三日前東京からおいでになり、今日迄ずっと町の旅館に滞在していられまし
当面の仕事は、まだ全然手が付けてないので、東京へは明朝夫人と一緒に引挙げる事にして、二人とも別荘の客室
なく、大月、秋田、比露子夫人の三人は、銚子駅から東京行の列車に乗り込んだ。
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吹きながらさっさとアスファルトの上を歩き続けて行った大月は、銀座裏のレストランでウイスキーを一杯ひっかけると、それからタクシーを拾ってユニオン・ダンス
にして、ざっと数え上げると、ユニオン、日米、国華、銀座、フロリダと、都合五つの舞踏場を踊り回った大月は、最後のフロリダ