上野 東京 銀座 新橋 浅草 須田町

私は顔をあからめた。彼はここが須田町、ここが上野というふうに云い、私は分つている分つていると低い声でこたえ

を教えた。その声が大きいので今ついたばかりの東京という都会にたいして、また乗客の手前、私は顔をあからめた。

た。そのころ東海道は新橋が行きとまりになり、新橋が東京の大玄関だつた。美術学校の二年生である田辺孝次と幸崎伊次郎、

でよごれた煉瓦の色だつた。そのため構内はうすぐらく、東京に着いた明るい感じなぞはしなかつた。そのころ東海道は新橋が行き

これから電車に乗つてやろう、そういうふうに私は東京についた第一日の印象に、電車というものを好いた。

もう午前十時から八時間東京にいるあいだに、私は東京になれて来たような気がしてくるのであつた。きよう昼間

驚いてはいないよと、もう午前十時から八時間東京にいるあいだに、私は東京になれて来たような気がして

は人が住んでいないんだと思うた。私は東京は西洋風とばかりおもい込んでいて、その感じのちがつていたのをこの

を押して云つた。これには全く驚いた。これで東京に来た甲斐があつたぞといい、中に人が住んでいるか

が云つた。犀星もあんなのになる覚悟をしなければ東京の生活はできないよといい、あれでも自分の書いたものを売

ならよし、なければ明日にも国に帰れ、一日見れば東京はたくさんなところだ。おれは君とともに共倒れになる生活はできない

げで半分健康であるような公園の情景が、私と東京とをうまく結びつけてくれたようなものであつた。

分らない都会特有の雑然たる混鬧が、好ましかつた。東京の第一夜をこんなところに送つたのも相応わしければ、半分病ましげで

まばゆい感じであつた。田辺孝次は大きな声で犀星此処は銀座だと、せまい大通りの人ばかり沢山歩いている歩道を教えた。その声

なかつた。そのころ東海道は新橋が行きとまりになり、新橋が東京の大玄関だつた。美術学校の二年生である田辺孝次と幸崎

着いた明るい感じなぞはしなかつた。そのころ東海道は新橋が行きとまりになり、新橋が東京の大玄関だつた。美術学校の二

新橋駅に降りた私はちいさな風呂敷包と、一本のさくらの洋杖を持つたきりであつた。

その晩、田辺と幸崎とで浅草公園に行き、六区の映画館街につれこまれた。私はわりあいに驚

田辺と幸崎とで浅草公園に行き、六区の映画館街につれこまれた

彼はここが須田町、ここが上野というふうに云い、私は分つている