牛込 丸の内 東京 五反田 新宿 三鷹 目黒

とかの理由を以て大学の講壇から去り、いまは牛込の御自宅で、それこそ晴耕雨読とでもいうべき悠々自適の生活をなさっている

けれども、行くところは無い。ふと思いついた。一つ牛込の瀬川さんを訪れて、私の愚痴を聞いてもらおうかと思った。

山田勇吉君という人は、そのころ丸の内の或る保険会社に勤めていたようである。やはり私たちと大学が同期であっ

に不名誉な落第などはせずに、さっさと卒業して、東京の或る雑誌社に勤めた。人間には、いろいろの癖がある。大隅

ああ、もう東京はいやだ、殺風景すぎる、僕は北京に行きたい、世界で一ばん古い都

「しかし、東京は、のんきだな。」

のんきだ。北京は、こんなもんじゃないぜ。」私は東京の人全部を代表して叱られている形だった。けれども、旅行者

また大隅君にとっては、この五年振りで逢った東京の友人が、相変らず迂愚な、のほほん顔をしているのを見

知識の十分の一以上を開陳するものではない。東京に住む俗な友人は、北京の人の諤々たる時事解説を神妙らしく拝聴

も黙って笑っていた。大隅君は五年振りで東京へ来て、謂わば興奮をしているのだろう。このたびの結婚の

だって、いそがしいからだである。見合いだけのために、ちょっと東京へやって来るというわけにも行かなかったようである。きょうはじめて、

にたよって、取りきめられた縁である。何せ北京と、東京である。大隅君だって、いそがしいからだである。見合いだけのために、

であったが、これは完全に失敗した。省線は五反田で降りて、それから小坂氏の書いて下さった略図をたよりに、十

が結納を、おとどけしなければなるまい。その前日、新宿の百貨店へ行って結納のおきまりの品々一式を買い求め、帰りに本屋へ

私は帰途、新宿の酒の店、二、三軒に立寄り、夜おそく帰宅した。大隅

数日後、大隅忠太郎君は折鞄一つかかえて、三鷹の私の陋屋の玄関に、のっそりと現われた。お嫁さんを迎えに

四月二十九日に、目黒の支那料理屋で大隅君の結婚式が行われた。その料理屋に於いて、