正義と微笑 / 太宰治
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僕は、もう何も聞くまいと思った。自動車は、駿河台、M大学前でとまった。見るとM大の正門に、大きい看板が立て
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受けて、真赤にキラキラ輝いている。海は、――銚子の半島も、むらさき色に幽かに見えて、水平線は鏡のふちのように、
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七月五日、午前十時より神楽坂、春秋座演技道場にて第一次考査を施行する。第一次考査は、
外は暑かった。神楽坂をてくてく歩いて、春秋座の演技道場へ着いたのは九時すこし過ぎだっ
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したらしい。家も、お父さんが死んで間もなく、牛込のあの大きい家から、いまの此の麹町の家に引越して来たのだ
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昼御飯をオリンピックで食べて、それから本郷の津田さんを訪れた。僕は、中学へはいったとしの春に、いち
本郷の街を歩きながら、兄さんは、
「どうも本郷は憂鬱だね。僕みたいに、帝大を中途でよした者には、この
して来るんだ。上野へでも行ってみるか。本郷は、もうたくさんだ。」と言って淋しそうに笑った。津田さんから、
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ているのか、わからない。始終、泣きたい気持ばかり。名古屋にいるのだ。
晴れ。名古屋の公演も終って、今夜、七時半に東京駅に着いた。大阪。名古屋。
終って、今夜、七時半に東京駅に着いた。大阪。名古屋。二箇月振りで帰ると、東京は既に師走である。僕も変った。
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。」とその事務員が言った。「はじめの願書は、樺太、新京などからも来て、ざっと六百通ちかく集ったのですよ。」
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が暗い。春も過ぎて行く。朝、木村から電話。横浜に行かぬかというのだ。ことわる。午後、神田に行き、受験参考書を
木村は、去年の暮に、家から二百円持ち出して、横浜、熱海と遊びまわり、お金を使い果してから、ぼんやり僕の家へやって来
たら、しらじらと夜が明けはじめた。省線に乗った。横浜。なぜ横浜までの切符を買ったのか、僕にも、うまく説明がつか
と夜が明けはじめた。省線に乗った。横浜。なぜ横浜までの切符を買ったのか、僕にも、うまく説明がつかない。とにかく
いるような気がした。けれども何も無かった。横浜の公園のベンチに、僕はひるごろまで坐っていた。港の汽船を
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面白かったが、二日には、全然いやになって、鎌倉の圭ちゃんの発案で、兄さん、新宿のマメちゃん、僕と四人で「
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ローマの廃墟が黄色い夕日を浴びてとても悲しい。白い衣にくるまった女が下を
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僕たちの宿は、道頓堀の、まっただ中。ほてい屋という、じめじめした連込み宿だ。六
ています。大阪は、いやなところですねえ。たいへん淋しい道頓堀です。あの、薄暗い「弥生」というバーでお酒を飲みました。そう
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晴れ。いまは大阪。中座。出し物は、「勧進帳」「歌行燈」「紅葉狩」。
雨。ごめんなさい。今晩は酔っぱらっています。大阪は、いやなところですねえ。たいへん淋しい道頓堀です。あの、薄暗い「弥生」と
公演も終って、今夜、七時半に東京駅に着いた。大阪。名古屋。二箇月振りで帰ると、東京は既に師走である。僕も変っ
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にも人の気配が無い。ハッと気附いた。きょうは靖国神社の大祭で学校は休みなのだ。孤立派の失敗である。きょうが休み
晴れ。夕刻より小雨。学校へ行ったら、きのうもやはり、靖国神社の大祭で休みだったという事を聞いて、なあんだと思った。つまり
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と、兄さんと約束したのを忘れたか。「ああエルサレム、エルサレム、予言者たちを殺し、遣されたる人々を石にて撃つ者よ、
兄さんと約束したのを忘れたか。「ああエルサレム、エルサレム、予言者たちを殺し、遣されたる人々を石にて撃つ者よ、牝鶏の
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景を、胸をおどらせて絶えずきょろきょろ眺めていた。両国を立って、しばらくは、線路の両側にただ工場、また工場、かと思えばその
れてやって来たのだ。きのう午後一時二十三分の汽車で両国を立ち、生れてはじめての旅行のように窓外の風景を、胸をおどらせて絶え
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た。こんないい天気に、学校に行くなんて、もったいない。上野公園に行き、公園のベンチで御弁当を食べて、午後は、ずっと図書館。
から、明治の雰囲気など、知る由もないが、でも上野公園や芝公園を歩いていると、ふいと感ずる郷愁のようなもの、あれ
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明治の雰囲気など、知る由もないが、でも上野公園や芝公園を歩いていると、ふいと感ずる郷愁のようなもの、あれが、きっと
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し、鈴岡氏に対しては、おどおどするし、僕は、下谷の家へ行くと、だめになるのだ。きょうも姉さんから、遊びに
考えるほど、しどろもどろになってしまう。僕は、去年からまだ下谷の家には、二度しか行っていないのだ。姉さんには
な気がする。起きてまごまごしていたら、いまは下谷に家を持っている姉さんから僕に電話だ。「あそびにいらっしゃい。
「下谷から、遊びに来いって言って来たんだけど、行きたくないんだ
断ったらいいんでしょう?」と言って、やや殺気立って下谷へ電話をかけたら、いけねえ、鈴岡氏が出て、
きょうは、阿呆の一日であった。どうも、下谷の家は難物だ。あの家に姉さんがいらして、そうして幸福そう
兄さんは、やっぱり頭がいい。下谷のつまらなさを知っているのだ。
姉さんは、僕にもろくに話掛けずに、夕方、下谷へ帰って行った。
大丈夫だと思う。兄さんは、朝から、れいの事件で下谷へ行ったそうで、まだ帰らない。簡単には、治まらなくなったらしい
そんな事より、ねえ、進ちゃん? お前も兄さんも、下谷の家を、とってもきらっているんでしょう? 俊雄さんの事なんか、お前
たし、お前たちばかりでなく、親戚の人も誰ひとり下谷へは立ち寄ってくれないんだもの。あたしも、考えたの。」
の支度さ。僕は、その話を兄さんから聞いて、下谷の家をがぜん好きになっちゃった。でも、坊やだけは、よして
「そうしてね、進も兄さんも、下谷の家が大きらいなんだろう? って言ってたぜ。」
じゃないか。いまは違うけど、前は、兄さんだって下谷の家へ、ちっとも遊びに行かなかったじゃないか。」
疲れて、中途でよして寝てしまった。兄さんは、下谷の家へ泊った。
兄さんを下谷へ送り出してから、僕は落ちついてその日の日記にとりかかったが、さすが
、ちゃっかりしている。グラスもトランプも、店から直接に下谷へ送ってもらうように手筈した。
此のトランプで遊ぼうという下心。どちらも、自分がこれから下谷へ行っても、充分に楽しめるように計画して買うのだから、ちゃっかり
を飲もうという下心。僕は、上等のトランプ一組。下谷へ遊びに行った時、姉さんと俊雄君と三人で此のトランプで遊ぼう
周年記念のお祝い品を買った。兄さんはグラスのセット。下谷へ遊びに行った時、このグラスで鈴岡さんと葡萄酒を飲もうという下心
をあれこれ読んで置きたかったので、結局は兄さんひとり、下谷の家へ行く事になって、僕は広小路でわかれて麹町へ帰った
、夜の十時である。兄さんは、まだ帰らない。下谷で鈴岡さんと飲んでいるのかも知れない。兄さんも、この頃は、
仕方が無い。兄さんと二人で、大急ぎでごはんを食べて下谷へ出かける。
電話だ。一大事だから、すぐに兄さんと二人で、下谷へ来てくれ、一大事、一大事、と笑いながら言うのである。どうし
けさは八時頃、下谷の姉さんから僕に電話だ。一大事だから、すぐに兄さんと二人
下谷へ行ってみたら、なんの事はない、一家三人、やたらにげらげら
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。僕には、まだまだ苦労が足りない、と思った。千葉で十五分待って、それから勝浦行に乗りかえ、夕方、片貝につく。
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すごい風だ。東京の春は、からっ風が強くて不愉快だ。埃が部屋の中にまで襲来
暗い、暗い小説だ。この暗さは、東京で生れて東京で育った者にだけ、わかるのだ。どうにもならぬ地獄だ。
はじめている。暗い、暗い小説だ。この暗さは、東京で生れて東京で育った者にだけ、わかるのだ。どうにもなら
へは、この四、五年、来た事がない。東京から遠すぎるし、場所も淋しいから、夏休みにも、たいてい沼津の母の
僕はトランクをさげて、また東京へ帰った。東京の夕暮は美しかった。有楽町のプラットホームのベンチに腰をおろして、僕は
僕はトランクをさげて、また東京へ帰った。東京の夕暮は美しかった。有楽町のプラットホームのベンチに腰を
晴れ。東から弱い風がそよそよ吹いている。もう、東京へ帰りたくなった。九十九里も、少しあきて来た。朝ごはんを食べて
いつでも、とても遠慮をしているのに。ああ、東京へ帰りたい。田舎は、とてもむずかしい。ゴルフをつづける気力も無く、僕たち
あすは東京へ帰ろうと思う。兄さんに相談したら、兄さんも、そろそろ帰りたいと思っ
だ。ひどく損をしたような気がした。早く東京へ帰りたい。僕は、やっぱり都会の子だ。
九十九里は晴れ、東京は雨。家へ着いたのは、午後七時半ごろだった。姉さんが
身であるから、ままにならぬ。ことしの夏は、東京に居残って頑張るのだ。兄さんの「文学公論」の小説は、とうとう締切
早く東京へ帰りたい。旅興行は、もういやだ。何も言いたくない。書きたく
に着いた。大阪。名古屋。二箇月振りで帰ると、東京は既に師走である。僕も変った。兄さんが、東京駅へ迎えに来
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間もなく、牛込のあの大きい家から、いまの此の麹町の家に引越して来たのだ。そうしてお母さんは病気になって
かけてはくれなかったのだ。僕はヨボヨボになって麹町の家へ帰ったのです。
。姉さんはいま、目黒のチョッピリ女史のところにいる。麹町の家には来てもらいたくないと、兄さんがはっきり断った様子である
「麹町でも、いい子供ばかりあって、仕合わせだねえ。進ちゃん、いい子だ
、まあ、こっちは主筋ですよ。それをなんだい、麹町にも此の頃はとんとごぶさた、ましてや私の存在なんて、どだい、もう、忘れ
。「どだい、向うから来やしないんだものね。麹町にも、とんとごぶさただそうだし、私のところへなんか、年始状だ
も、書生流というのか、なんというのか、麹町や目黒にだけでなく、ご自分の親戚のおかた達にも、まるでもう
の家へ行く事になって、僕は広小路でわかれて麹町へ帰った。
「麹町です。」と恐縮して言った。
「麹町。」斎藤氏は、ちょっと考えて、「遠い。」と言った。これ
」と姉さんは言う。なんの事やら、わからない。麹町では都新聞をとっていない。
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学校の帰り、目黒キネマに寄って、「進め竜騎兵」を見て来た。つまらなかった。
た。結局、三対三。試合の帰りに、先輩と目黒でビイルを飲んだ。
、無理がないような気がする。姉さんはいま、目黒のチョッピリ女史のところにいる。麹町の家には来てもらいたくないと
て雨が降り出しそうだったのだが、ほとんど夢中で目黒まで行ってしまった。チョッピリ女史は在宅だった。姉さんもいた。姉
きのう学校からの帰り道、ふと目黒のチョッピリ叔母さんのところへ寄って行こうかと思って、そう思ったら、
、陰でこそこそしているばかりで、いっこうに此の頃は、目黒へも姿を見せないじゃないか。兄さんには、私から、うんと
書生流というのか、なんというのか、麹町や目黒にだけでなく、ご自分の親戚のおかた達にも、まるでもう、ごぶさた
兄さんの帰宅を待ちこがれた事が無い。お母さんは、僕が目黒の家で晩ごはんをたべて来たという事を聞いて、やたらに姉
「風邪なんて、忘れちゃったよ。僕は、きょう目黒へ行って来たんだよ。」
いよいよ出発。鈴岡さんと姉さんが、早朝から手伝いに来る。目黒のチョッピリ叔母さんも来る。チョッピリという形容詞は、つつしむことに叔母さんと
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いうやつだ。二人で、いやに真面目な顔をして銀座を歩いて、資生堂でアイスクリイム・ソオダとでもいったところか。案外、
今夜は、姉さんが鈴岡さんからの電話で、銀座へおでかけ。婚前交際というやつだ。二人で、いやに真面目な顔を
ギタを買ってもらった。晩ごはんがすんでから、兄さんと銀座へ散歩に出て、その途中で僕が楽器屋の飾窓をちょっとのぞき込んで
て来て、僕は、ギタをひいてばかりいた。銀座へ、さそわれたけれど、断る。
。みんな僕たちみたいに家が憂鬱だから、こうして銀座へ出て来ているのであろうか、と思ったら、おそろしい気がし
ある。こっそり兄さんと、うなずき合って、一緒に外出した。銀座は、ひどい人出である。みんな僕たちみたいに家が憂鬱だから、こう
て、耳がシンシン鳴って、のどが、やたらに乾く。銀座へ出た。四丁目の角に立って、烈風に吹かれながらゴー・ストップ
前の夏には避暑客でごったかえしていた片貝の銀座も、いまは電燈一つ灯っていない。まっくらである。犬の遠吠
、Kというクラスの色男が、恋人らしい女と一緒に銀座を歩いていたというのだ。それで、その色男が教室へはいっ
という始末。そうして学校がすめば、さあきょうは銀座に出るぜ! などと生きかえったみたいに得意になって騒ぎたてる。けさも
十一時頃一緒に家を出て、途中、銀座に寄って、姉さんの結婚一周年記念のお祝い品を買った。兄さん
事務所の電話番号を捜し出すのに骨を折った。兄さんが、銀座のプレイガイドに勤めている兄さんの知人に電話をかけて、調査をたのみ
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。横浜に行かぬかというのだ。ことわる。午後、神田に行き、受験参考書を全部そろえた。夏休みまでに代数研究(上・下)を
夜、兄さんは僕を連れて、神田へ行き、大学の制帽と靴とを買ってくれた。僕はその帽子
「神田だ。」と重い口調で言った。ひどく嗄れた声である。顔は
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いやになって、鎌倉の圭ちゃんの発案で、兄さん、新宿のマメちゃん、僕と四人で「父帰る」の朗読をやった。
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あった。地下鉄に乗った。浅草雷門まで来た。浅草は、大勢の人出であった。もう泣いていない。自分を、ラスコリニコフ
を見たひとが、二人あった。地下鉄に乗った。浅草雷門まで来た。浅草は、大勢の人出であった。もう泣いて
諸君は四月一日の夜、浅草のネオンの森を、野良犬の如くうろついて歩いていた一人の中学生を
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て、また東京へ帰った。東京の夕暮は美しかった。有楽町のプラットホームのベンチに腰をおろして、僕は明滅するビルデングの灯を、
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でも、きょうはいい天気だった。帰りには、高田馬場の吉田書店に寄って、ゆっくり古本を漁った。時々、目まいが起る。
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やり切れない。犯罪者みたいな気がして来るんだ。上野へでも行ってみるか。本郷は、もうたくさんだ。」と言って
僕たちは上野へ出て、牛鍋をたべた。兄さんは、ビールを飲んだ。僕に
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「九日に、新富町の研究所で行います。」
出発の時間が早すぎた。新富町の研究所はすぐにわかった。アパートの三階である。到着したの
まで行って、絵看板を見て、さて、それからまた新富町の研究所へ引返した。
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さん夫婦、俊雄君、それから兄さん、僕、五人で日比谷へ支那料理を食べに出かけた。みんな浮き浮きはしゃいでいたが、僕ひとり
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晴れ。僕はいま、九十九里浜の別荘で、とても幸福に暮している。きのう、兄さんに連れられてやっ
に眠った。そうしてあくる日、兄さんは僕を連れて九十九里浜にやって来た。つまり、きのうの事である。僕たちは磯伝い