富嶽百景 / 太宰治
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甲州。ここの山々の特徴は、山々の起伏の線の、へんに虚しい、なだらか
多く、此土に仙遊するが如し。」と在つた。甲州の山々は、あるひは山の、げてものなのかも知れない。私は、甲府市
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あんな愁嘆なんて、意味ないね。同情しないよ。朝顔の大井川は、あれは大水で、それに朝顔は、めくらの身なんだし、
けれども、あれだつて、泳いで泳げないことはない。大井川の棒杭にしがみついて、天道さまを、うらんでゐたんぢや、意味ないよ
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あるひは山の、げてものなのかも知れない。私は、甲府市からバスにゆられて一時間。御坂峠へたどりつく。
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、甚だ散文的な口調で、あれが三ツ峠、向ふが河口湖、わかさぎといふ魚がゐます、など、物憂さうな、呟きに似た
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だから、つまらない。どの山へのぼつても、おなじ富士山が見えるだけで、それを思ふと、気が重くなります。」
振り仰げば、寒空のなか、のつそり突つ立つてゐる富士山、そのときの富士はまるで、どてら姿に、ふところ手して傲然とかまへて
「富士山には、もう雪が降つたでせうか。」
、私は、ふたりの姿をレンズから追放して、ただ富士山だけを、レンズ一ぱいにキャッチして、富士山、さやうなら、お世話になりまし
して、ただ富士山だけを、レンズ一ぱいにキャッチして、富士山、さやうなら、お世話になりました。パチリ。
へ帰つて現像してみた時には驚くだらう。富士山だけが大きく写つてゐて、ふたりの姿はどこにも見えない。
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合つてゐなければならなくなつた。この峠は、甲府から東海道に出る鎌倉往還の衝に当つてゐて、北面富士の代表観望
見合ひすることになつてゐた。井伏氏に連れられて甲府のまちはづれの、その娘さんのお家へお伺ひした。井伏氏
を引きあげることになつて、私も甲府までおともした。甲府で私は、或る娘さんと見合ひすることになつてゐた。井伏氏
井伏氏は、御坂峠を引きあげることになつて、私も甲府までおともした。甲府で私は、或る娘さんと見合ひすることになつ
らひ言つて見よう、と私は単身、峠を下り、甲府の娘さんのお家へお伺ひした。さいはひ娘さんも、家
「なあんだ。甲府からでも、富士が見えるぢやないか。ばかにしてゐやがる。」
甲府から帰つて来ると、やはり、呼吸ができないくらゐにひどく肩が凝つ
らはなければ、肩の凝りがとれないほど、私は甲府で緊張し、一心に努めたのである。
甲府へ行つて来て、二、三日、流石に私はぼんやりして、
「お客さん。甲府へ行つたら、わるくなつたわね。」
、安宿の廊下の汚い欄干によりかかり、富士を見ると、甲府の富士は、山々のうしろから、三分の一ほど顔を出してゐる
その翌る日に、山を下りた。まづ、甲府の安宿に一泊して、そのあくる朝、安宿の廊下の汚い欄干に
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東京の、アパートの窓から見る富士は、くるしい。冬には、はつきり、
つてゐるやうな、そんなむさくるしい姿でもあり、多分は東京の、そんな華やかな娘さんから、はいからの用事を頼まれて、内心