入舟町 淀橋 金山 善光寺 四谷 大阪 前橋 東京 内幸町 日比谷 銀座 浅草 上野 新宿 神田

「入舟町へかへります。」入舟町の露路、髪結さんの二階の一室を、さちよ

「入舟町へかへります。」入舟町の露路、髪結さんの二階の一室を、さちよは借りてゐた。

その橋を越せば、入舟町である。

言葉を書き残して、八重田数枝のアパアトから姿を消した。淀橋の三木の家を訪れたのは、その日の夜、八時頃である

円タクひろつた。淀橋に走らせた。

誰かれ見さかひなくつかまへて来ては、その金山のこと言つて、わたくしは恥づかしくて死ぬるほどでございました。まち

をかいて坐つてゐた。青年と顔を見合せ、善光寺は、たちまち卑屈に、ひひと笑つて、

ダンスホオルで働いてゐる友人がひとり在つて、そのひとの四谷のアパアトに、さちよはころがりこみ、編物をしたり、洗濯をしたり、食事

ちよを野薔薇としたら、八重田数枝は、あざみである。大阪の生れで、もともと貧しい育ちの娘であつた。お菓子屋をしてゐる老父

ました。大臣でも、師団長でも、知事でも、前橋でお遊びのときには、必ず、わたくしの家に、きまつてゐ

頃は、前橋で、ええ、国は上州でございます、前橋でも一流中の一流の割烹店でございました。大臣でも、師団長で

あはれなことでございますが、父の達者な頃は、前橋で、ええ、国は上州でございます、前橋でも一流中の一流の

なら、ございます。」昭和五年の十月二十日、東京の街路樹の葉は、風に散りかけてゐた。

は、消えるやうにゐなくなつた。画の勉強に、東京へ逃げて行つた、とも言はれ、母との間に何かあつ

を買ひ、水兵服のままで、汽車に乗つた。東京は、さちよを待ちかまへてゐた。さちよを迎へいれるやいな

悪魔の囁きは、しばしば男を白痴にする。そのころの東京には、モナ・リザをはだかにしてみたり、政岡の亭主につい

財産は、おれのうちで、ちやんと保管してあります。東京での二年間のことは、これからのおまへの生涯に、かへつて薬

。没落だよ。この仕事が、できあがらないことには、東京にも帰れないし、もう十日以上も、こんな山宿に立てこもつて

の汚なさ、あたしの無力、みんな一時に思ひ出しちやつた。東京は、いいわね。あたしより、もつと不幸な人が、もつと恥づ

、こんなところで話をしてゐると、死ぬるくらゐに東京が恋しい。あなたが悪いのよ。あたしの愛情が、どうのかうのと

東京では、昭和六年の元旦に、雪が降つた。未明より、ちらちら

問屋からしばしばやつて来るお菓子職人と遊んで、ふたり一緒に東京へ出て来た。父母も、はんぶんは黙許のかたちであつた。お菓子

あの子は、見どころあります。それから母子ふたりで、東京へ出て、苦労しました。わたくしは、どんぶり持つて豆腐いつちやう

ました。そのときに、朝太郎は偉かつた。すぐに東京から駈けつけ、大喜びのふりして、お父さん、そんないい山を持つてゐながら

人たちの笑ひ草にはなるし、朝太郎は、そのころまだ東京の大学にはひつたばかりのところでございましたが、わたくしは、あまり

どんなに笑はれたか、知つてゐるわね。東京は、いそがしくて、もう、そんなこと忘れたやうな顔してゐて呉れる

全部、身仕度は出来た。数時間のち、須々木乙彦は、内幸町、帝国ホテルのまへに立つてゐた。鼠いろのこまかい縞目の袷に、

。はき馴れぬフエルト草履で、歩きにくいやうに見えた。日比谷。すきやばし、尾張町。

そのまま、乙彦は外へ出た。ステツキを振つて日比谷のはうへ、ぶらぶら歩いた。たそがれである。うすら寒かつた。はき馴れぬ

こんどはステツキをずるずる引きずつて、銀座を歩いた。何も見なかつた。ぼんやり水平線を見てゐるやうな

のがかれの酔つぱらつたときの口癖であつて、銀座のバアの女たちには、歴史的さんと呼ばれてゐた。

して別段、勉強も、学問も、しなかつた。もと銀座の同じバアにつとめてゐて、いまは神田のダンスホオルで働いてゐる

としの十一月下旬、朝ふと眼を醒ますと、以前おなじ銀座のバアにつとめてゐた高野さちよが、しよんぼり枕もとに坐つ

、そのとほりに思ひこんでゐた。二十四になつて銀座のバアをよして、踊子になつた。このはうが、いくらか余計

である。家を持つことは、できず、数枝も同じ銀座で働いた。あまり上品でないバアである。少しづつ離れて、たちまち加速度

あつた。お菓子職人、二十三歳。上京して、早速、銀座のベエカリイに雇はれた。薄給である。家を持つことは、でき

を呑んでゐる。昨年の晩秋に、須々木乙彦は、この銀座裏のバアにふらと立ち寄つた。さうして、この同じソフアに腰

三人で、ホテルを出て、自動車を拾ひ、浅草。レヴユウを見た。乙彦は、少し離れて坐つてゐた。

誰か、はつきりしない。まさか、父ではなからう。浅草でわかれた、あの青年ではなかつたかしら。とにかく、霧中の記憶にすぎ

学校からのかへりみち、ふらと停車場に立寄り、上野までの切符を買ひ、水兵服のままで、汽車に乗つた。東京

ゆうべは、新宿のバアで一緒にのんだ。かねて、顔見知りの間柄である。ふと、

た。もと銀座の同じバアにつとめてゐて、いまは神田のダンスホオルで働いてゐる友人がひとり在つて、そのひとの四谷のアパアト