註文帳 / 泉鏡花
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荷を担いで、廓内をぶらついて、帰りにゃあ箕輪の浄閑寺へ廻って、以前御贔屓になりましたと、遊女の無縁の塔婆に挨拶
のを、いやそうでない。魂魄この土に留まって、浄閑寺にお参詣をする私への礼心、無縁の信女達の総代に麹町の
お前もよく拝んで御免蒙って来ねえ。廓どころか、浄閑寺の方も一走が可いぜ。とても独じゃ遣切れねえ、荷物は確に預っ
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に扱帯をしめたッきり、鼠色の上着を合せて、兵庫という髪が判然見えた、それもばさばさして今寝床から出たという
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この事実は、翌早朝、金杉の方から裏へ廻って、寮の木戸へつけて、同一枕に死骸を
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通りかかって両方で見初めたという悪縁じゃ。男の方は長州藩の若侍。
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の方、あれから下谷へ駆けて来た途中、お茶の水から外神田へ曲ろうという、角の時計台の見える処で、鉄道馬車の線路を横に切れよう
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「筑波の方に雲が見えるぜ。」
折から夕暮の天暗く、筑波から出た雲が、早や屋根の上から大鷲の嘴のごとく田町の空を
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じゃがお前、東京と代が替って、こちとらはまるで死んだ江戸のお位牌の姿じゃわ、羅宇屋の方はまだ開けたのが出来た
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から八九間さきなる軒下に引込んで、三島神社の辺から大音寺前の通、田町にかけてただ一白。
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鹿児島戦争の時に大したお手柄があって、馬車に乗らっしゃるほどな御身分
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たんだけれども、一体内は四ツ谷の方、あれから下谷へ駆けて来た途中、お茶の水から外神田へ曲ろうという、角の時計台の
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に塗って、あとは薄墨でぼかした彩色、これならば高尾の二代目三代目時分の禿が使に来ても、一目して研屋
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が昨日のこッた、竹の皮包の腰兵糧でもって巣鴨の養育院というのに出かけて、施のちょきちょきを遣ってさ、総がかり
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その崩が豊国へ入って、大廻りに舞台が交ると上野の見晴で勢揃というのだ、それから二人三人ずつ別れ別れに大門
何でも徳川様瓦解の時分に、父様の方は上野へ入んなすって、お前、お嬢さんが可哀そうにお邸の前へ茣蓙を
「お恥かしいわけだけれど、実は上野の方へ出る方角さえ分らない。芳原はそこに見えるというのに、
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の剃刀研、私は広徳寺前を右へ寄って、稲荷町の鏡研、自分達が早や変化の類じゃ、へへへへへ。」と薄
ちゃあお祭の時幅が利かねえ。忰は稼いでるし、稲荷町の差配は店賃の取り立てにやあ歩行かねえッての、むむ。」と大得意
の礼心、無縁の信女達の総代に麹町の宝物を稲荷町までお遣わしで、私に一杯振舞うてくれる気、と、早や、手前勝手。
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「じゃがお前、東京と代が替って、こちとらはまるで死んだ江戸のお位牌の姿じゃわ
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何でも差配さんがお出入の、麹町辺の御大家の鏡じゃそうな。
、昨日それが出来て、差配さんまで差出すと、直に麹町のお邸とやらへ行かしった。
をする私への礼心、無縁の信女達の総代に麹町の宝物を稲荷町までお遣わしで、私に一杯振舞うてくれる気、と
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は四ツ谷の方、あれから下谷へ駆けて来た途中、お茶の水から外神田へ曲ろうという、角の時計台の見える処で、鉄道馬車の線路を