湯島 鎌倉山 北海道 八丁堀 根津 小石川 本所 シカゴ 江戸 根岸 谷中 川越 湯島天神 巴里 下谷 松山 千葉 仙台 京都 赤羽 上野 神田 東京 浜町 日本橋

毎月欠かさなかった。去年の夏だ、まだ朝早いのに湯島に参って、これから鰐口を鳴らそうと思うので、御手洗で清めようとすると

東京の地において可懐いのは湯島であった。湯島もその見晴の鉄の欄干に凭って、升形の家が取囲んでいる天神下の

た。その日も梓は例のごとく、不遇の身を湯島の境内に彷徨わせて、鉄欄干に遣瀬のう時を消して暮方に家

だに蝶吉は恩人である。殊に懐旧の情に堪えざる湯島の記念がある上に、今はある者は死し、ある者は行方の知れ

不断着をそのまま、かかる時、梓が行くのは必ず湯島。

にさる時は行いて時を消すのが例であった湯島から、谷中に帰る途の暗がりで、唐突に手を捕えたのは一名

「鎌倉山の大小名、和田北条をはじめとして、佐々木、梶原、千葉、三浦、

が狂ったようになり、いま一人は人に連れられて北海道に渡ったという、音信があって、それなりけり。

「八丁堀だそうだ。」

ってあの御気色を御覧じろ、きっとあれだ、違えねえね、八丁堀で花札が走った上に、怨み重なる支那と来ちゃあ、こりゃ奢られッこなし

ちょうど今しがた、根津の交番で、太く取乱した女が一人掴ったが、神月という人を

されば冥土を辿るような思いで、弥生町を過ぎて根津まで行くと、夜更で人立はなかったが、交番の中に、蝶吉

を頼むのも、医者を心付けるのも、北里と、小石川の及腰、瘠細るばかり塩気を断って、生命を縮めてもと念じ明し

のことで抱主から半日の暇を許され、再び母親を小石川の荒屋に見舞うと、三日が間、夜も昼も差込み通し、鳩尾の

に廻った。橋場今戸の居まわりは云うに及ばず、本所、下谷、飛離れて遠くは日本橋あたりまでも、草履穿で駈ずり歩かねば

で、世話役が三人これを頭取が率いてパリイとかシカゴとかいう処の、博覧会へ日本の女を見せに行く。場所も薔薇の

加うるに、その母親というのは、その始江戸から住替えて来た有名な芸妓だった、のみならず、これを便って同じ

も寄らぬ夫定めで、言い交した土佐の浪人とまだ江戸である頃遁げて来た。二人で根岸に隠れている中、時世といい

着てるね、）といった。故郷の京の色香に江戸の意気張を持って、仲之町でも、葭町でも、小さんといって、

「根岸の新華族だ、入れ。」と云って座に直る。

となった、且つ勤め、且つ夫に情を立てて、根岸に通っている内に、蝶吉は出来たので。

「谷中の方へ行くんですが、」

取つきの行燈に、――おいしくば買いに来て見よ川越の、と仮名書して、本場○焼俵藤助――となん。

あらず、猫か、あらず。あらず。あらず。湯島天神中坂下の松の鮨の忰源ちゃんである。この男銭を遣わず

「そうさ、持出すが悪いか。先方じゃあ巴里で、麺麭を食ってバイブルを読んでいた時に、こっちじゃあ、

「おい、」と重く落着いて一ツ頷いた。これは下谷西黒門町に住んで、頭、頭と立てらるる、辰何とか言うの

と御神燈の影で、ここに美しく照らし出されたのは、下谷数寄屋町大和屋が分の蝶吉である。

た。橋場今戸の居まわりは云うに及ばず、本所、下谷、飛離れて遠くは日本橋あたりまでも、草履穿で駈ずり歩かねばなら

蔽う白熊の毛皮を敷いて、ぞろりと着流して坐りながら、下谷の地を操縦する、神機軍師朱武あって、疾より秘計を囲らし、

鼠小紋春着新形。神田の与吉実は鼠小僧次郎吉、傾城松山、」ちょっと句切って、

「おやおや、大倭家内松山峰子様行と書いてあるねえ。」

墓は、神月梓、松山峰子、と二ツならべて谷中の瑞林寺にある。

大小名、和田北条をはじめとして、佐々木、梶原、千葉、三浦、当時一※別当の工藤などへは二三度入り、まぶな時

しかるに、梓は旧仙台の生で、土地の塗物師の子であったが、豊なる家計の

有名な芸妓だった、のみならず、これを便って同じ仙台の土地へ後から出て来た母の妹夫婦も、また甚だ不遇で

蝶吉の母親は旧京都のしかるべき商賈の娘であったが、よくある、浄瑠璃の文句にある

新婚旅行に出掛けようとして、上野から汽車に乗込むと、まだ赤羽の声も掛らぬうち、山下の森の中で、光りものがした。

、そんなことがあるものか、新婚旅行に出掛けようとして、上野から汽車に乗込むと、まだ赤羽の声も掛らぬうち、山下の森の

「ええ、鼠小紋春着新形。神田の与吉実は鼠小僧次郎吉、傾城松山、」ちょっと句切って、

梓が上京して後東京の地において可懐いのは湯島であった。湯島もその見晴の

日三円、十月の約束でどうだという。どの道東京で死んだ処で、誰一人そうかとも言ってくれない体だから

の贔屓客に、連児は承知の上落籍されて、浜町に妾宅を構えると、二年が間、蝶吉は、乳母日傘で、

まわりは云うに及ばず、本所、下谷、飛離れて遠くは日本橋あたりまでも、草履穿で駈ずり歩かねばならないのみならず、煮る