大阪 北海道 横浜 江戸 愛鷹山 東海道 京都 岡山 東京 蔵前 住吉 神田

―去年急病で亡くなりました。がその節は、私は大阪へ行っていました。

この土地へ帰って来ましたってね……永い間、北海道も、何とかッて、ずッと奥の炭坑の方に居たんですってさ

は手紙がかけず、震災のあった時なんかも、遠い北海道の果に居て、どれほどお案じした事やら、それでも、まあ

お葬式の涙ばかりで暮すぞね。……ほんにね、北海道に十六年居る間でも、一人を負ぶして、二人の手を曳い

だが、農家で育って、子守をして、工女から北海道へ落ちたって、それほど情ながったり、怨めしがったりする事はなかろうと思う。

と思う。けれども考えて見るが可い、……きみは北海道の川端か、身投げをしようとするのに、小児を負ったり抱いたりしたろう

を云う）、前にある黒い瓶じゃがの。それは東海道横浜にござった、葛原（八郎の母方の姓）の妹娘の骨を入れて、

「――横浜の、ええ、叔母の娘、姉妹でね、……叔母の娘は可笑しいん

。何か商売上もくろみがあって、地方を了って、横浜へ出て失敗をしましてね。亭主も亡くなって、自分で芸事を教え

横浜の新仏が燐火にもならずに、飛んで来ている――成程、親

た。志す処は、いずれも維新の世の波に、江戸を落ちた徳川の流の末の能役者だったという、八郎の母方の祖父

――（愛鷹山や富士の高嶺かすかになりて、天つ御空の霞に）――

八郎を云う）、前にある黒い瓶じゃがの。それは東海道横浜にござった、葛原（八郎の母方の姓）の妹娘の骨を入れて

振りで、勤めのために帰郷する――私の方は京都へ行く用があった。そこで自然誘われて、雪国の都を見物

うちに、お産なぞありますとね、気が向くと、京都、岡山まででも飛出して、二月三月帰らない事が度々ありまし

、お産なぞありますとね、気が向くと、京都、岡山まででも飛出して、二月三月帰らない事が度々ありました。

そこで自然誘われて、雪国の都を見物のため、東京から信越線を掛けて大廻りをしたのであった。

東京では細君と二人ぐらしで――（私は謡や能で知己なの

刎も上げない褄をきれいに、しっとりした友染を、東京下りの吾妻下駄の素足に捌いたのが、ちらちらと交るを見ると

「東京にはこいつが少いかして、めったにお目に掛らないんです。

姿が好いからといって、糸より鯛。――東京の（若衆）に当る、土地では（小桜）……と云う

にごつごつをぶち開けたが、「そうでござんすとも、東京からいらしったんでは。」ために勢が挫けたそうで、また

可いんです。――若干金か、旅費を出して、東京から私を呼ぶったって……この土地の人は、土地流の、土地能

頂戴々々というもんだから、若い可愛い嫁の、しかも東京で育ったのが、暗い国へ来て、さぞ、どんなにか情なかろうと

再度までも申出ましたものを、御着の時間どころか、東京御出発の御通知も下さらず、幹事一同は大狼狽。勿論、催能

「お聞きなさい――橘さん……いやしくも東京から家元同格の貴下がおいでだと云うで、今夕、申合打合せの

「東京の柳鰈か――すらりと細い……食ってるものも華奢だなあ。少し

というのの菩提寺であった。――父母の墓は東京にある。――

しない。また騒いだ処で、玄人の連中は、いずれ東京へ出れば世話になろうと思うから、そっとして置いたのさ。そこ

あんな節のない謡なんか、ただ口を利いてるようだ。東京の謡は場違いだな、こっちから縁を切る。）と、お久さんの

蔵前の違棚の前に、二人の唐縮緬友染の蒲団が設けてあったが

する。……遊女、白拍子はまだしも、畏多いが歌の住吉明神のお声だって写すんです。謡本と首引きで、朱筆で点

ね、この方が流行ったそうです。四五年前に、神田の私の内へ訪ねて来た時、小鼓まで持参して、（八郎