妖魔の辻占 / 泉鏡花
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悲しげに響いて、あれ/\と見るうちに、遠く筑波の方へ霞んで了つた。近習たちも皆見た。丁ど日中で
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こゝで読者に、真夜中の箱根の山を想像して頂きたい。同時に、もみぢと、霧と、霜と
繰返して言ふが、文政初年霜月十日の深夜なる、箱根の奥の蘆の湖の渚である。
た。近江の湖岸で、里程は二十里。――江戸と箱根は是より少し遠い。……
ござります。児がござります。――何として、箱根から京まで宙が飛べませう。江戸へ帰りたう存じます。……お
呼ぶと、向うから歩行くやうに、する/\と真夜中の箱根の関所が、霧を被いて出て来た。
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「関東の武家のやうに見受けますが、何うなさつた。――此処は、まこと
城一つも同じ道理ぢや。よき折から京方に対し、関東の武威をあらはすため、都鳥を射て、鴻の羽、鷹の羽の矢を胸さき
ながら、心得違ひな事は、諸事万端、おありがたや関東の御威光がりでな。――一年、比野大納言、まだお年若で
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「これは、秋葉山の御行者。」
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なく、魔界の一党、狗賓の類属。東海、奥州、ともに名代の天狗であつた。
「洛中の是沙汰。関東一円、奥州まで、愚僧が一山へも立処に響いた。いづれも、京方の御為に
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「然れば、此ぢや。……浜松の本陣から引攫うて持つて参つて、約束通り、京極、比野大納言
催。拙道は即ち仰をうけて、都鳥の使者が浜松の本陣へ着いた処を、風呂にも入れず、縁側から引攫つた。
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事実として一般に信ぜられた記録がある。――薩摩鹿児島に、小給の武士の子で年十四に成るのが、父の使に
縮めたのは、大な口を開けて呆れたので。薩摩は此処から何千里あるだい、と反対に尋ねたのである。少年も
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武士は、小堀伝十郎と申す――陪臣なれど、それとても千石を食むのぢや。主人の殿は松平大島守と言ふ……」
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を蒙り、京都と同じ日、先づ/\同じ刻限に、江戸城へも事を試みる約束であつたれば、千住の大橋、上野の森を一
「ふむ、……其処で肝要な、江戸城の趣は如何であつたな。」
「征夷大将軍の江戸城に於ては、紙屑買唯一人を、老中はじめ合戦の混乱ぢや。」
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家風か質素か知らない。此の頃の恁うした場合の、江戸の将軍家――までもない、諸侯の大奥と表の容体に比較して見る
がない。――鹿児島まで、及ぶべきやうもないから、江戸の薩摩屋敷まで送り届けた。
近かつた。近江の湖岸で、里程は二十里。――江戸と箱根は是より少し遠い。……
愚僧は好事――お行者こそ御苦労な。江戸まで、あの荷物を送と見えます。――武士は何とした、心
何として、箱根から京まで宙が飛べませう。江戸へ帰りたう存じます。……お武家様、助けて下せえ……」
まい。――屑屋、法衣の袖を取れ、確と取れ、江戸へ帰すぞ。」
「江戸へ帰りますものにござります。山道に迷ひました。お通しを願ひたう存じ
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と、鹿児島とは、何処ぢやと言ふ。おのれ、日本の薩摩国鹿児島を知らぬかと呼ばはると、伸び/\とした鼻の下を
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、大納言の卿に、将軍家よりの御進物。よつて、九州へ帰国の諸侯が、途次の使者兼帯、其の武士が、都鳥の宰領とし
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京都に於て、当時第一の名門であつた、比野大納言資治卿(
「御身は京都の返りだな。」
御身と同然に、愚僧等御司配の命令を蒙り、京都と同じ日、先づ/\同じ刻限に、江戸城へも事を試みる約束
「京都の御ため。」
と御坊。……今度、其の若年寄に、便宜あつて、京都比野大納言殿より、(江戸隅田川の都鳥が見たい、一羽首尾
。――一年、比野大納言、まだお年若で、京都御名代として、日光の社参に下られたを饗応して、帰洛
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として一般に信ぜられた記録がある。――薩摩鹿児島に、小給の武士の子で年十四に成るのが、父の使に
鹿児島とは、何処ぢやと言ふ。おのれ、日本の薩摩国鹿児島を知らぬかと呼ばはると、伸び/\とした鼻の下を
に腹を立てて、鹿児島だい、と大きく言ふと、鹿児島とは、何処ぢやと言ふ。おのれ、日本の薩摩国鹿児島を知らぬか
官員の忰だから、向う見ずに腹を立てて、鹿児島だい、と大きく言ふと、鹿児島とは、何処ぢやと言ふ。おのれ、
。精神にも身体にも、見事異状がない。――鹿児島まで、及ぶべきやうもないから、江戸の薩摩屋敷まで送り届けた。
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……此は見たものの名が分つて居る。讃州高松、松平侯の世子で、貞五郎と云ふのが、近習たちと、浜町
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隙間がない。……ぐるり/\と窺ふうちに、桜田門の番所傍の石垣から、大な蛇が面を出して居るのを偶と
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へも事を試みる約束であつたれば、千住の大橋、上野の森を一のしに、濠端の松まで飛んで出た。かしこの
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に、江戸城へも事を試みる約束であつたれば、千住の大橋、上野の森を一のしに、濠端の松まで飛んで出
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の世子で、貞五郎と云ふのが、近習たちと、浜町矢の倉の邸の庭で、凧を揚げて遊んで居た。
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些と寒いほどの西風で、凧に向つた遙か品川の海の方から、ひら/\と紅いものが、ぽつちりと見えて
、日光の社参に下られたを饗応して、帰洛を品川へ送るのに、資治卿の装束が、藤色なる水干の裾を曳き、
また此の、品川で、陣羽織菊綴で、風折烏帽子紫の懸緒に張合つた次第を聞いて、
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に、便宜あつて、京都比野大納言殿より、(江戸隅田川の都鳥が見たい、一羽首尾ようして送られよ。)と云ふ
処で、今度、隅田川両岸の人払、いや人よせをして、件の陣羽織、菊綴、葵
「かの隅田川に、唯一羽なる都鳥があつて、雪なす翼は、朱鷺色の影