瑪瑙盤 / 林芙美子
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寒子は、夜の九時ごろまでも続くパリの長い白暮が好きで、モンパルナツスの墓場の間の小道をよく歩いた。
パリへ来て、別に友達もない寒子は、長い白暮を一寸もてあましコツコツ
食つて生きてゐるやうな寒子には、耳から来るパリのたそがれの風景はたまらなくせいせいと快適なものであつた。
南画風なラブラードは、このパリのたそがれの音を、画面の中に出せたのであらうか、モジリアニの女
に出せたのであらうか、モジリアニの女の腰部は、パリのたそがれをよく知つてゐるのではないだらうか、――この白
、歩かないで寝てた方がいゝわ、とても、このパリもモデルが多くて、――今ぢや淫売とモデル兼業の女も多いし、
「パリつて、色気の多い街ね、部屋の中にゐると、あんなに心が醗酵
この煽情的なものは、パリの街を吹く風の中に流れてゐるのだらうか――街角を曲る
は、だんだら縞の海岸傘が一時にパツと開いて、パリは、高山のお花畑になつてしまつた。
と手紙を出しても、家から来るたよりは、折角パリへ出かけたのだから、仕上げて帰つて来たらといつて来るばかりであつ
パリにゐる日本人の絵描きは、大方寒子のことをうらやましがつてゐた。
「パリへ来て、こんな気持の堆積が自分を神経衰弱にするのだ」
さう思つて街を見ると、リオンの停車場でひと目見たパリの印象がボヤボヤと崩れて、最もビジネス的な風景になつて来る。
と美しかつた。只黒いコンテの心臓から聴覚につたはるパリの姿を描かふ、私の仕事はそれでいゝのだわ、私を革命家
ものぐさなロロが、もうパリにはひりこんで、パリの街のどこかで眠つてゐる。――
ものぐさなロロが、もうパリにはひりこんで、パリの街のどこかで眠つてゐる。――
「大丈夫、すぐ通つて行く――パリの雨だけは僕は大好きだ」
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「河下さん、神戸でホテルをしてゐるんですつて、――もう大きい奥さんもあります
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の言葉が、何処まで本心なのか、まだ日の浅い巴里住ひの寒子にはよく呑み込めなかつたが、来る度に河下の
、笑つて、早い三、四年で、もうロロは巴里の屋根の下で眠つてるよと答へた。
寝台に起きあがつて、何度巴里夕刊を引つくり返して見ても、やつぱりあの男の顔が出てゐる