根津 本郷 東京

な事云つて、きれいな姉ちやん澤山ゐたもンだ。根津のごんげんさまにもよくお參りしたもンだし、逢初橋の夜店のロシヤパン

學校でげせう？　わしは、いつだつて、あの本郷の通りを歩くと、あゝ結構な學校だなアと思つたもンですぜ。アメリカ

銀杏若葉にめぐまれた、あの、ぱあつと緑に染つた本郷の、大學の景色が、美津江の心にふつとかげつて來た。

十六の年から、さんざん東京で苦勞をした揚句、二十二の春、このＳ町にうつつて來

か、ちぐはぐな景色だと思つた。そのくせ、夏は東京よりも暑く、冬が來ると、枕元に置いた飮みかけの茶さへ凍

美津江は東京がなつかしくて仕方がなかつた。美津江は、天井のひくい二階に、女

しはじめたお神さんの口車に乘せられて、仲々東京に歸つてはゆけなかつた。

「いゝえ、東京なンです。柏木に家があつたンですが、こちらに疎開して

兵隊さんのお客さんでなア。久しぶりに、昨夜は賑やかに、東京の話をして、えらい、わしもお客さんに樂しみさせて貰つ

、今晩は、馬鹿に氣がめいつて、いやに、東京へ戻りたくてさ、さつきも、つまらねえ事ばかり考へてゐたンだ

「美津、お前、東京へ行く決心つかねえかえ？」

「これは、東京産の美人でございまして」と、不粹な紹介をしながら、床

ゐると、美津江は、もう、再び、祖父は、あのなつかしい東京を見る事はおぼつかないではないだらうかと云ふ豫感がしてなら

「東京早く歸らうよね」

ツはツ……死ぬ時が來れば死ぬさ。まア、東京を見ない事には思ひが殘るから喃……」

てしまつた。ほんの少しの酒に醉つたのも、東京を想ひ、人を想ふ氣持ちも添へて、その醉ひは、若い美津江の