富士山 水戸 福井 神戸 上野 東京

は床の間のある部屋もつくつてあつた。床の間には富士山の軸がさがつてゐたし、唐獅子のやうな妙な置物も置いて

怖ろしがつて、自分から進んで軍需會社へ勤め口をみつけて水戸の工場へ行つてしまつた。球江はそのころ女學生であつた

三十をすこし越した女もゐた。一行は女主人の福井と、球江のやうな女達五人と、ボルネオから迎へに來た

て……」「もう、そんなのかねえ」「えゝ、神戸で生れて、女給さんをしたり、藝者をしたり、まア、いろんなこと

でコックのやうなことをしてゐた松谷と知りあひ、上野驛近くの宿屋で時時あひゞきをかさねてゐるうちに、球江

時に、母親には默つて學校をやめてしまふと、上野驛の食堂へ給仕女の職をみつけた。こゝでコックのやうなこと

來ると、ふつと涙がつきあげてきた。もう一度東京へ戻りたいとも思つた。ボルネオは二年といふ約束だけれども、

日は耐へられないやうな自責を感じてゐた。東京での約束とは何も彼も違つてゐて、ここでは躯

ば、またボルネオが戀しくなるンだらうけれど、一度だけ東京へ復つてみたいわ」球江はさういひながらも、ほんたうは、そんなに

黄いろい齒をしてゐた。「ねえ、澄子さんねえ、東京へ泳いで復りたいンですつて……あなたはどう？」「君こそ