大島行 / 林芙美子
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、下田から東京までの切符を買つてしまひました。修善寺まで連絡の乘合自動車ですが、大變乘り心地のいゝものです。
下田から、修善寺まで三時間もあるのですが、此途中の風景は山峽の道だけに
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の噴いてゐるところまでは一里位はありませう。三原山外輪山の瓦色の黒ずんだ沙漠に出ると、横なぐりの大風で、遠くを歩い
――三原山の火口の話なのですが、あの山も、今では隨分底の方
ひとが多いのか、今日の新聞を見てゐると、三原山に飛びこんだ青年の事が出てゐますが、全く不思議な事だ。せめて
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下賀茂、蓮臺寺、河内などもいゝ温泉だと聞きました。本當は、こつとりこつとり歩きながら、
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が、澄んだ素朴な聲でした。驢馬を降りて、内輪山への壁をよぢのぼり、紅殼土の針のやうにヂクザクした丘の
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段々の上に立つて、村の屋根を見てゐるとナポリの漁師町と似たところがあつて、とても、心愉しいものでした。
コンクリートの雨水を貯めるところがあつて、そんなのも、ひどくナポリに似てゐる。ヴヱスビオの山の煙のやうに雄大でもないが、貧しい
、貧しいながらも、此岡田村から見る御神火は私の小ナポリです。
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伊豆の此旅は、同じ伊豆の中でありながら、大島の青葉とくらべて、
伊豆の此旅は、同じ伊豆の中でありながら、大島の青葉とくらべて、瞼に緑が沁みると沁み
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樣子も見えません。港から、岬の裏がはの大浦の方に歩いてみました。よどむだやうな小さな河があつて、その
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、私の掌に乘合ひの三十錢だけをのせて差木地村で降りて行つてしまひました。差木地村は岡田村とはまた違つた鄙び
だけをのせて差木地村で降りて行つてしまひました。差木地村は岡田村とはまた違つた鄙びた村で、眉の濃い子供達が、椿
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早朝五時には、下田へ行く東京灣汽船が出るので、次手に下田港へ行つてみるのも
早朝三時半頃には女中が下田へ行く客を起こしに來ます。雨戸を開けると、硝子玉のはいつた
これから下田です。
によく似てゐます。大島の元村から二時間で下田の港です。晴天でしたので、下田の町をポツポツ歩きましたが、
から二時間で下田の港です。晴天でしたので、下田の町をポツポツ歩きましたが、軒が底く、白い土塀の多い古風な
――子供達と一緒にモータアボートに乘せて貰つて、下田の沖を走つたのですが、春の逝きかけた淺緑の山の手前
。中でも、女の寢たやうな寢姿山は、下田の町と妙にしつくりしてゐて、慰さめられる風景でした。ひどく海に
てしまつたのか、こゝでは休息だけにして、下田から東京までの切符を買つてしまひました。修善寺まで連絡の乘合自動車
やうに、古風な喇叭をつけてゐて、大きな體で下田の町を拔けて行きます。
に干してあつたり、金色に光つた笹藪なぞが多く、下田の町はづれは、汽車が通じてゐないだけに、温く優さしいところ
下田から、修善寺まで三時間もあるのですが、此途中の風景は山峽の
下田から、東京までの自動車の連絡があつて五圓あまりです。十二三里
それ程、下田から湯ヶ島へかけて、私の心をとらへてしまつたのでせう。ところ
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があるので「どこなの」と訊いてみると「九州の佐賀です」と云つてゐましたが、
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野増村から戀人の手紙
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ので「どこなの」と訊いてみると「九州の佐賀です」と云つてゐましたが、
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菊丸の船の中で御一緒になつた、東京灣汽船の林專務の話では、此島をやがては家族連れの遊山地
やうにヂクザクした丘の上へ出ると、四五人の東京の娘らしいのが、遠くの火口をめがけて石を投げてゐました
寫眞屋や、呉服屋や、床屋なぞがあつて、昔の東京場末のやうな感じもします。
て、雨の中を元村へ歸りましたが、もう東京へ歸へる船が出てしまつたので、亦元村に一泊です
此お爺さんの生活を訊いてみますと、息子が東京にゐるのですが、住所も判らず、晝は各村々の官主か何
牛乳を飮んで、乘り合はせた東京の小官吏らしい人と、トボトボ雨の中を歩いて、濱ぞひの
とにかく島へをれば、食つてだけはゆけますので、東京へなぞ出たくありません」なぞとも云つてゐました。間伏から
ひとには樂しいところでせう。こんないゝ港に、東京からの便利な船が、這入らないのが不思議な位、美しい風景のところ
早朝五時には、下田へ行く東京灣汽船が出るので、次手に下田港へ行つてみるのもいゝだら
に、牛乳も忘れられて、兎に角波止場へ出ました。東京から來た客を、ハシケで一々運んでから、下田行きの客が乘る
「東京の客人は、宵越しの辨當を持つて山へ登るんだから、ガツチリ
たのか、こゝでは休息だけにして、下田から東京までの切符を買つてしまひました。修善寺まで連絡の乘合自動車です
まるで、何かを追ひ求めてゐるやうに、東京にも歸へらず、途中の湯ヶ島で乘合自動車を降りてしまひました
下田から、東京までの自動車の連絡があつて五圓あまりです。十二三里の山
はゐられないやうないゝ風景です。――今夜はいよいよ東京です。修善寺の驛へ出て、古ぼけた地圖を見てゐますと
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湯ヶ島は谷底に家があつて、カジカでもゐさうな落合川が、谷の峽を白く流れてゐます。