ハノイ 箱根 戸塚 牛込 神楽坂 赤坂 本庄 松戸 秋田 広島 千葉 人形町 東京 新小岩

別荘を買った人の弟だとかで、戦争中はハノイで貿易の商社を起していたのだけれども、終戦後引揚げて来て

とウイスキーの瓶を田部のグラスに差した。「ああ、箱根かどっか静かなところへ行きたいな。二三日そんな処でぐっすり寝てみ

の値段で、現在の沼袋の電話つきの家を買い、戸塚から沼袋へ疎開していた。戸塚とは眼と鼻の近さであり

、株をやったり借家を建てたりして、その頃は牛込の藁店に住んでいたが、藁店の相沢と云えば、牛込で

に住んでいたが、藁店の相沢と云えば、牛込でも相当の金持ちとして見られていた。その頃神楽坂に辰井と

も相当の金持ちとして見られていた。その頃神楽坂に辰井と云う古い足袋屋があって、そこに、町子と云う美しい娘が

きんも、町内では美しい少女として評判だった。神楽坂には二人の小町娘として人々に云いふらされていた。――きん

芸術品を造り出すような気がした。きんは娘時代に赤坂の万竜に似ていると云われた。人妻になった万竜を一度見掛けた

。きんはその頃、やぶれかぶれな気持ちで家を飛び出して、赤坂の鈴本と云う家から芸者になって出た。辰井の町子は、丁度その

のだった。――きんは両親がなかった。秋田の本庄近くの小砂川の生れだと云う事だけが記憶にあって、五ツ位の

をかける事を忘れなかった。きんはその頃、千葉の松戸で花壇をつくっている男と知りあっていた。熱海の別荘を買った人

だけれども、終戦後引揚げて来て、兄の資本で松戸で花の栽培を始めた。年はまだ四十歳そこそこであったが、頭髪

があるのだった。――きんは両親がなかった。秋田の本庄近くの小砂川の生れだと云う事だけが記憶にあって、五

していた。きんは、田部を尋ねて二度ほど広島へ行った。

少尉で出征したのだけれども、田部の部隊はしばらく広島に駐在していた。きんは、田部を尋ねて二度ほど広島へ

は昔の夢も消えて失望してしまった。田部は広島の生れであったが、長兄が代議士になったとかで、兄の

に行き、その後田部から幾度電報が来ても、きんは広島へは行かなかった。昭和十七年に田部はビルマへ行き、終戦の翌年

人に告白して云った。二度ほど田部を尋ねて広島に行き、その後田部から幾度電報が来ても、きんは広島へは行か

の体臭にきんはへきえきしながらも、二晩を田部と広島の旅館で暮した。はるばると遠い地を尋ねて、くたくたに疲れてい

広島へ着くなり、旅館へ軍服姿の田部が尋ねて来た。革臭い田部

知れないと、きんはじいっと田部の表情を観察した。広島へ行った時のような一途な思いはもうきんの心から薄れ去っている

きんは若い田部の方に惹かれている事を悟る。広島では辛かったけれども、あの頃の田部は軍人であったし、あの

た運の強さが、きんには運命を感じさせる。広島まで田部を追って行った、あの時の苦労だけで、もうこの男と

までラジオをかける事を忘れなかった。きんはその頃、千葉の松戸で花壇をつくっている男と知りあっていた。熱海の別荘を

に、町子と云う美しい娘がいた。この足袋屋は人形町のみょうが屋と同じように歴史のある家で、辰井の足袋と云えば

云う事だけが記憶にあって、五ツ位の時に東京に貰われて、相沢の姓を名乗り、相沢家の娘としてそ

たとかで、兄の世話で自動車会社を起して、東京で一年もたたない間に、見違えるばかり立派な紳士になってきんの

の中にいるように静かだった。帰りは夜で、新小岩へ広い軍道路をバスで戻ったのを覚えている。「あれから、