赤坂 箪笥町 四谷 東京 日比谷 日本橋 市ヶ谷 銀座

ありやアべつぴんだつたねえ。いゝ子だつた。昔、赤坂に萬龍つて藝者がゐたが、あの寫眞によく似てゐたよ。

てゐる。重吉は急に煙草が吸ひたくなつた。箪笥町へおいてきたのが殘念で仕方がない。

四谷の驛の前で重吉は暫く四邊を眺めてゐた。下町と違つ

の重吉には食つて行けないのだ。友達の家は四谷の箪笥町にあつていまだに壕舍生活をしてゐた。地下生活は

美しい東京の街も、この數ヶ月の激しい變化で根こそぎ變つてしまひ、あの

貧しい生活だつたので、重吉は二週間位してまた東京へ舞ひもどつて來て間もなくの終戰であつた。

てゐるのが、燒野原の夜空に哀愁をこめて。東京の夜の街は、この荒涼とした景色に永遠に膠着してゐる

なければならないわけがないのである。重吉は昔の東京の街がなつかしかつた。四谷見附のそばには三河屋と云ふ肉屋があつ

重吉は昨日日比谷の公園のなかでひろつた煙草の吸殼を出して竹のパイプにさし

だ。生きてゐるやうな氣がしてね。此間も日本橋でな、夕方、ジープに乘つてゐる娘がゐてね。ほんの一寸

ひこむと、外套のポケットに兩手を入れてさつさと市ヶ谷の方へ歩いて行つてしまつた。

「銀座」

「ほう、銀座……」