雨 / 林芙美子
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「名古屋も大半燒けちまつたでねえ……」
日をかけた方がいゝから、自分は明日にでも名古屋の友達のところへ行つてみようと思ふンですが、お父さんはどう考へますか
。――只、自分の問題ですが……當分、名古屋か東京に出て、將來の事を考へてみようと思ひます……」
、かうした靜かな部屋で、孝次郎はふつと名古屋にゐる中學時代からの仲のよかつた友人を思ひ出した。陶器を販賣
自然な折が來るまで、名古屋のその知人の處で働いて、その上で皆に逢ひにかへりませうと
で皆に逢ひにかへりませうと云ふ約束で、孝次郎は名古屋へ發つて行つたけれども、尋ねる住所は燒けてゐて、津田の行つた
やうでわからなかつた。孝次郎は雨の中を一日名古屋の街をあるいた。歩き疲れて名古屋驛の廣い構内へ這入つて、何
雨の中を一日名古屋の街をあるいた。歩き疲れて名古屋驛の廣い構内へ這入つて、何と云ふこともなく改札の長い行列
てゐた。澤山の巨きな圓柱に支へられた美しい名古屋の驛も、建物が大きいだけに、その中に宿もなくひしめきあつてゐる
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、いまは子供ごと背負ひ込みで、それに、この子も岡崎の工場で怪我をして腕一本なくしてしまつて……それでもう
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くる。とりとめもなく妙な女の顏も浮んで來る。九州から只一筋に汽車でこゝまで來ただけでは、この世の中がどんなになつ
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かへれようなぞとは夢にも思はなかつただけに、佐世保へ上陸してからのこの一週間あまりは、孝次郎にとつて一年の歳月
一月×日朝、まだ夜のしらじら明けに佐世保へ上陸して、孝次郎は土に落ちてゐる煙草の空箱をひらつた。
殘務整理で、どうしても佐世保へ一泊しなければならなかつたので、孝次郎は、變り果てた
。部屋へ戻ると、うめは始終おづおづしてゐた。佐世保からほとんど飮まず食はずだつたと云ふと、うめはもう兩眼から涙を溢れ
何氣なく外套のポケットへ手をつつこんでみると、佐世保でひらつたカメルの空箱がくしやくしやになつて這入つてゐた。
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鼠色の襟卷きはたしか五圓足らずでずつと以前に長野の洋品店で買つたものだつたが、あの頃は何でも安かつ
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はないでせうかね? 明日の朝の汽車で東京へ行くのですが、寢るだけ寢さしてくれる家はないでせう
材木會社に勤めてゐたが、繪が好きで、たまに東京へ出ると展覽會をみたり、繪具を買ひあつめるのが愉しみであつ
―只、自分の問題ですが……當分、名古屋か東京に出て、將來の事を考へてみようと思ひます……」
私も夜はいつまでも起きてゐる方で、――東京行きといふと朝は何時ですかね?」