下町 / 林芙美子

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地名一覧

駒形

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留吉が浅草へ出たのは二時頃であつた。駒形の橋の見える方へ出て、河添ひに白鬚の方へ歩いた。こゝ

シベリア

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まどひしながら、有難く鮭を貰つた。「主人はシベリアにゐるんですけど、まだ、戻つて来ませんので、こンな事で

吃驚したやうに顔を挙げて、「ほう、旦那はシベリアのどこにゐるンだね?」と訊いた。

も限度があるとりよは独りで怒つてゐた。シベリアで四度も冬を迎へる隆次のおもかげが、まるで幽霊のやうに段々痩せ

を、様々な荷船が往来してゐた。りよはシベリアの良人のおもかげよりも、色濃く鶴石のおもかげの方が、はつきりと浮ん

上野公園

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。桜には、まだ早かつたが、時間があつたら上野公園も歩いてみようと云ふので、約束の日に、りよは鶴石に

静岡

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が乗つかつてゐた。「お茶?」「はい、静岡のお茶なンですけどねえ……」りよは、微笑しながら、さつ

で、自転車をやりすごしてから、おそるおそるそばへ行つて、「静岡のお茶はいりませんでせうか……」と小さい声で聞い

腰をかけた。「何の商売も楽ぢやアねえな、静岡の茶つて云ふのは、百匁いくら位するンだい?」男

身を入れて歩くやうになつた。茶のほかに、静岡の親類から鯖や鰮のけづり節も送つて貰つて、それも一緒

。りよはまたその隣りの家の硝子戸を開ける。「静岡のお茶でございますが……」「はい、いりませんよオ」玄関

ついて、りよはその家の格子を開けた。「静岡のお茶でございますけど、香りのいゝお茶、如何でございますか

の打ちつけてある貧しげな家へ声をかけた。「静岡のお茶はいりませんでせうか?」「さうね、いくら? 高い

下谷

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何かえ、お前さんの家はどこだえ?」「下谷の稲荷町なンですけどね、まだ東京へ来ましたばかりで、西

福岡

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」「田舎にゐるよ」「田舎は、どこ?」「福岡だよ」「お姉さんは何してるの?」「おりよさんみてえに独りで

東京

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え?」「下谷の稲荷町なンですけどね、まだ東京へ来ましたばかりで、西も東も判らないンです」「ほう、

も東京がいゝと思つたし、のたれ死しても東京の方がいまはいゝのだ。

も、りよは、商売があつても、なくても東京がいゝと思つたし、のたれ死しても東京の方がいまは

稲荷町

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え、お前さんの家はどこだえ?」「下谷の稲荷町なンですけどね、まだ東京へ来ましたばかりで、西も東も

ので、自分の部屋といふものがない。りよは稲荷町よりも、四ツ木の鶴石のところへ行きたかつたのだけれども、

なつたら送つてあげるよ」送つてあげると云ふのは、稲荷町のりよの家の事であらうかと思つた。りよの家へは

と云つた。鉛筆をなめながら、小さい帳面にりよの稲荷町の住所を書きとめてゐた。別れしなに、鶴石は田原町の洋品屋

浅草

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行き出して、七八日たつた頃であつたらうか。まだ浅草を見た事がないと云ふ、りよと留吉を案内して、鶴石

のり巻きや、夏みかんを入れてさげてゐた。地下鉄で浅草の終点まで行き、松屋の横から二天門の方へ歩いて、仲店の

な気がした。朱塗りの小さい御堂が、あの有名な浅草の観音様なのかとがつかりしてゐる。昔は見上げるやうに巨きい

りよは、浅草と云ふところは、案外なきたいはづれな気がした。朱塗りの小さい

りよと留吉が浅草へ出たのは二時頃であつた。駒形の橋の見える方へ

田原町

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で、雨は四囲に激しく鳴つてゐる。やつと、田原町の近くに小さい旅館を見つけた。

町の住所を書きとめてゐた。別れしなに、鶴石は田原町の洋品屋で留吉にネーム入りの野球帽子を買つてくれたりした

大宮

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から……」「いゝ人間だつたがなア……何も大宮まで行く事はなかつたンだよ。つい、誘はれて昼過ぎから出掛けちや

てくれた。今日、会社のものや、鶴石の姉が大宮で鶴石の死骸をだびにふして、明日の朝は戻つて来ると

鶴石が、鉄材をのつけたトラックに乗つて、大宮からの帰り、何とかと云ふ橋の上から、トラックが河へまつ

隅田川

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出て、河添ひに白鬚の方へ歩いた。こゝが隅田川と云ふのだらうと、りよは青黒い海のやうな水を見て