厄年 / 加能作次郎
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いふ予定であつたので、是を機会にして、伊勢、尾張、近江、播磨などに夫々帰省して居る友達が同時に京都に落合
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京都に落合はう、藤村の「春」の人物が、富士山麓の吉原の宿に東からと西からと落合つた様に、各方面から同時に
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故郷へ帰らうか、それとも京都へ行かうか、平三は此の問題に二日間悩まされた。同じこと
と思つたからである。勿論長い間だから八月丈け京都に居て其前後は東京で暮さうといふ予定であつた。併し故郷
と、他に厭な事情もあるのと、一つは京都は彼の第二の故郷とも言ふべき土地であり、その上もう六七
帰省するを常として居たが、今年は最初から京都で暮さうと思つて居た。それは故郷の生活の単調無為なの
の追想であつた。少年の彼を中心とした小さい京都の社会を、今の彼が想出す其の心持が当時の生活に種々の
楽んで居た。彼の心を牽きつけたものは京都の山水でもなく名所旧蹟でもなく、彼の今迄の生活に最も影響
一度京都へ行くことに決してからは、彼は一二ヶ月の間は来るべき夏
東からと西からと落合つた様に、各方面から同時に京都に落合つたらどんなに心ゆくことであらうと云ふ様なロマンチックな空想がそれ
、近江、播磨などに夫々帰省して居る友達が同時に京都に落合はう、藤村の「春」の人物が、富士山麓の吉原の
て信濃飛騨を旅し、美濃路を経て八月上旬京都に出て、二週間ばかり滞在しようといふ予定であつたので、是
今一つ彼をして此夏京都の生活を楽しく思はせた理由がある。友のSが七月下旬東京
て、Sから「種々都合悪しく旅行は出来ない、少くとも京都へは行けないから不悪……」と言つて来た。平三はひどく
「ぢや僕も京都はよさう。君が行かないのなら。」
たが、実際其時は止めようと思つた。恰も彼の京都行の動機は単に友達と一緒に落合ふといふ事のみであつたか
も慄然とする、苦痛だ、気が晴れぬ、――京都へ行け、姉が居る、死んだ伯父の跡を弔ひたい、色々の人
へ帰るべきだ、だがもしも……それに京都にも未練がある、では両方へ行けばよい、併し最早時日が足ら
「故郷、京都、何処へ行かうか、何らでも宜い、何処へ行つても同じ
帰郷と実際的の利害得失を比較商量する様になつた。京都と故郷とに於ける自分の生活状態を詳かに胸に描いて見て
何が何だか分らなくなつた。最初は気分だけで京都行に決定したことが後には帰郷と実際的の利害得失を比較商量
翌朝彼は新橋へ行つた。車の上でも絶えず京都と故郷とを繰返した。けれども只だ如何にも忙しく両方の地名が楯
せられたのだと思つて自ら慰めた。併し尚ほ京都は断念められなかつたので、汽車が北陸線との乗換場の米原
、愈※帰郷するに極まつたものの、彼は尚ほ京都へ行けばよかつたかしらと思つて、更に一両日来の考を繰返した
と言つて了つたが、あの時もし京都と言つたら矢張り京都へ行くんだつた。何うして此切符を買つたのであらう
思慮なしに○○と言つて了つたが、あの時もし京都と言つたら矢張り京都へ行くんだつた。何うして此切符を買
湛へた父の俤が眼前に現はれた。それと同時に京都のことも考へた。が今度は別段思ひ残す程のこともなかつた。秋
居るのであつた。五年前に肋膜炎だといつて京都の親類の家に居たのが帰つて来た。それから三四ヶ月養生
ぬと思つた。あゝつまらない、何故帰つて来たらう? 京都へ行つて居ればよかつたのにと後悔されもした。寧
は常に沖漁に行つて家に居ないし、姉は京都へ行つて居て居らぬし、平三は全く一人ぽつちで自分の苦しい
居た。平三が再び国に帰つた時分お桐は又京都へ行つて居た。かくして二人が比較的近く相接する様になつた
ではそんな子供の時分のことなどは少しも知らない。京都から帰つて以来は人間が違つた程優しくなつた。兄さん兄さんと平三を
平三は表の四畳で京都の親類などへお桐の危篤を知らせる手紙を書いて居た。平七
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は明かにさうと言ひにくい事情もあるので、今年は東京に居て勉強せねばならぬから帰られないと手紙を出して置い
勿論長い間だから八月丈け京都に居て其前後は東京で暮さうといふ予定であつた。併し故郷へは明かにさうと言ひ
楽しく思はせた理由がある。友のSが七月下旬東京を出発して信濃飛騨を旅し、美濃路を経て八月上旬京都
「止さう。――では何処へ行かう? 東京に居るのは厭だ、温泉か海水浴か、それは経済が許さぬ。
様子を眺めて居た甚六の爺さんは、「やあ、東京の旦那、手が泣きますぞ。筆よか艪が重からうが。」と
さゝれるのが俺ア何より辛いのや。お前が東京へ修業に行つて居ると、そりや、賞めてくれる者もある代り、
「東京、東京! 東京の若旦那だわい。はつはは。」と平七は気味のよささうに
「東京、東京! 東京の若旦那だわい。はつはは。」と平七は気味のよ
「東京、東京! 東京の若旦那だわい。はつはは。」と平七は気味
。また福の神が舞ひ込んで来たなア――やア東京の兄さん!」と其男は手を挙げて空に振つた。村の
の小学校へ一寸顔だけ出して檀那寺へ行つた。暫く東京の話などしてから、住職と五目並を四五囘やつた頃、磯
中の一人であることが非常に愉快であつた。昨日今日東京から帰つたばかりとは思はれぬ程、気分が田舎生活に同化して
よかつたのにと後悔されもした。寧そ東京へ行かうかとも思つて見たがそれも要するに思ふ丈で実行
此前東京の友達への手紙に妹の病気のことを言ひ、本人も周囲の人々
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翌朝彼は新橋へ行つた。車の上でも絶えず京都と故郷とを繰返した。