軽井沢 長野 東京

あや子　　さうですつてね、去年の夏、軽井沢へ行つた友達がさう言つてたわ。軽井沢とそんなに違はないんで

の夏、軽井沢へ行つた友達がさう言つてたわ。軽井沢とそんなに違はないんでせう。

はないよ。（間）ところで、今晩はね、ちよつと長野まで行かなきやならん用事ができたんだ。寂しいだらうけど、留守番

亮太郎　　この秋は、東京へ送らせることにしよう。独りぢや、栗を焼いて食ふ気にもなら

あや子　　馬鹿なんて、そんな……。ぢや、東京の者なんかはお嫌ひでせう。

ゐか、葉の茂り工合が、一層物々しくなつてゐる。東京附近に、こんな栗の木はちよつとないだらう。何しろ、この村で一番

あや子　　あなたは、東京にいらつしやる時と、まるで違つておしまひになつたわね

亮太郎　　そろそろ東京へ帰りたくなつたらう。それより、もうとつくにここがいやになつてる

。（頭を抱へてかすかに身悶えする）僕は、やつぱり東京へ帰らうと思ふ。その方がほんとだといふ気がする。つまらんと

亮太郎　　だから、東京へ帰るよ。明日にでも帰るよ。（ふと耳をそばだて）また向う

てゐるのか。（間）保の奴、きつと東京へ出て来るぜ。

さうだ。君はなんでも知つてる筈だ。早く東京へ帰らう。

あや子　　東京はまだ暑いでせうね。

亮太郎　　僕はね、今度東京へ帰つたら、どつかで借金をして、家を一軒建てるよ。

都会だからといふ理由の方が主だらう。僕が東京を恋しがると同じわけに違ひない。都会は住んでみないと、

いふものが必要なのかねえ。君なんかどうだい。東京が恋しいといふのは、故郷だからといふよりも、都会だからと

、君はうれしさうだね。ほんとにうれしいのかい。東京へ帰るのが、そんなにうれしいか。