落葉日記 / 岸田国士
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「わたし、マケドニヤの生れです。ナポリに永くゐました。それからポートセード、ヂブチ、それから一度マルセイユへ行つて、
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ゐるが以前この家を建てた頃は、まだ雑木林が遠く秩父の山々をすかして見せる茫漠たる武蔵野の真ん中で、井荻村といふ名に応
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に永くゐました。それからポートセード、ヂブチ、それから一度マルセイユへ行つて、こんどはハノイ……どこもおなじですよ。マダムのお話、
なるんだ。お互に我儘を云つちやいかんよ。マルセイユでは沢村が船まで迎へに出てる筈だが、ぼんやりしてるとわからん
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は、まだ雑木林が遠く秩父の山々をすかして見せる茫漠たる武蔵野の真ん中で、井荻村といふ名に応はしい趣があつたが、青梅
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ないさうですけれど、なんでも今、印度支那のハノイ(河内と書くんださうです)とかいふところにいらつしやるとか、そこ
仏領印度支那の首都、河内の街はづれに、ぽつりと一軒の洋館が建つてゐて、「VILLA
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「待つとくれ……横浜のどこだつけ……名簿を調べてみなくつちや……」
ピッコロミリ夫人は、時々横浜からやつて来た。そして、梨枝子をそばにおいて、一枝とこんな話を
「横浜の中学を出て、あとはお父さまのお店を手伝つてらつしやるんです
やいかんよ。日曜には帰つて来なさい。時々は横浜へ連れて行つてあげる。ピッコロミリのをばさんが一緒なら、映画を観に行く
横浜へ着くまで、安里のことをあれこれと考へつづけてはゐたものの、いつ
「この次、一緒にあたしも横浜へ連れてつてくれない? あんたのフィヤンセつて、どんなシャンか見といて
? この間の日曜は、何処へ行つた? もち横浜か?」
から、行くときは電話をかけるわ。黙つてたら、横浜へ行くわ、それでいい?」
ことお話したいのよ。こんどの日曜に、だから、あたし横浜へ行かずにこつちで待つてるわ。××電鉄の停留場へ九時までに
その日の午後梨枝子は安里を送つて横浜へ行き、夕食をピッコロミリ夫人の家で食べ、さて、帰る時間になると、
「あたし、横浜へ帰るの、いやんなつたわ。安里の顔、みるの、いや……」
横浜をまさに出帆しようとしてゐるフランス船アンドレ・ルボンのこつちは二等甲板で
逢ひ、なにか身近な温かい空気を感じた。それは、横浜の外人の群と、どこか違つてゐた。日本にゐて、白人
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したやうな相手なのだ。夫の死後売り払つた本郷の家も、彼が最初図面を引いたといふ因縁もあつて、一時は
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過した巴里の街の物語や生れ故郷の丁抹の都コペンハーゲンの話などを聞かしてくれたが、自分はつひぞ行つて見ようと思つたこと
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相手をたうとう見つけた。一級上の間部福子といふ、北海道生れの、背のひよろ長い生徒であつた。非常によくできるといふ評判
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ハノイには日本の領事館もあるらしく、そつちの方面からなにか手がかりが得られ
手紙をごらん下さい。彼は今、印度支那にゐます。ハノイの郊外の、みすぼらしいアパアトで呻いてゐます。癒る見込みのない病気と、私たち
ところで、さうきまると、ハノイから来た廉介の使ひ、素性のわからぬマダム・クラビンスキイとやらをどう始末
しかし、その雨も昼頃にはやんで、ハノイ郊外の飛行場は、煙る水蒸気のなかで活気を見せはじめた。世界記録を目指し
日本へ飛ぶ最後の着陸を予定してゐるのが、このハノイであり、既にラングーン無電局から、午前十一時、上空通過の報告がはひつ
彼は帰つて来なかつた。クラビンスキイ夫人と二人で、ハノイから姿を消してしまつたのである。
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わかり、生憎電話はないが、夏の七八九、三ヶ月は軽井沢滞在として、その番地までちやんと名簿に出てゐた。さう云へばその
カラ松の林に取囲まれた瑞西風の山荘が、軽井沢のゴルフ・リンクに近い斜面の中腹に建つてゐた。極く質素な見つき
乗合は満員だつた。軽井沢から沓掛の駅へ出ると、道はぐんぐん登りになる。浅間の麓を大きく
も怖ろしいことだと気がとがめ、最初安里と識り合つた軽井沢の夏の生活を楽しく振り返つてみると、今かうして「あの人」
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、楢、櫨などの密林をかき分けて、はるかに雪の妙義山を見晴らせるところへ来ると、女車掌は、金切声で、名所案内の文句を小学生のやう
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一人でつまらなかつたら、誰かお友達を誘つて、上高地へでも行つてらつしやいよ」
、知らん顔をしてゐた。彼は、これから上高地へ行くんだと云つた。みんなで、乗合の停車場まで送つて行つた。
もそんなことは聞いてませんよ。ただ、弘君は上高地へ行くつて、そん時はみんなでバスまで送つてつたんです。ただ
……何処どこへ見当つけてつたらいいでせうね、上高地は別として……」
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行きたいと云へば、安里のところであつた。家は神奈川といふことだけ聞いてゐる。向うから遊びに来る筈になつてゐるのに
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梨枝子は、その日の午後、小石川のアパアトへ叔母の一枝を訪ねると云つて出て行つた。叔母は生憎留守
を待つてゐたが、遂に姿を見せなかつた。小石川の叔母のところで泊つたか、さもなければ、あんなことを云つてゐながら
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は、窓の外をさも珍らしさうに眺めてゐる。半蔵門から濠端に沿つて、空と水にうつる灯が次第に闇を消して
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から沓掛の駅へ出ると、道はぐんぐん登りになる。浅間の麓を大きく迂回しながら、崖を切り開いた火山灰の道が、灌木と
噴火の都度焼石の降る六里ヶ原を抜けきると、浅間の中腹から西北へ流れる大熔岩の連続がすなはち「鬼押出し」で通る一風変
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香港は、一層、彼女の気に入つた。そこでは日本人街といふのを
「まあさういふわけですけど、丁度、香港からシャルジュウル・レユニつていふ会社の船が明後日はいるんですの。それへ乗る
の支店へ問ひ合せてみると、クラビンスキイ夫人が昨日の朝、香港までの切符を二枚買つたといふことがわかつた。
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廉介からは、一と月ぶりに、三人に宛てて札幌の消印のある絵葉書が届いた。
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記憶の中でではあるが、自分の学生時代を過した巴里の街の物語や生れ故郷の丁抹の都コペンハーゲンの話などを聞かして
、それは、梨枝子の母のアメリイと兄の廉介とが巴里の郊外か何処かで写したものらしい。二人はまだ若く、殊に、アメリイ
商で、最初これも国際結婚をしたのだが、巴里生れの細君が子供を残して国へ帰つてしまひ、その後へ、今の
「銀黒狐つていふのは巴里ぢやあんまり流行らないんですけど、いいのはやつぱりよろしいですね」
つて、どういふの? あなたのとこは、みなさん巴里仕込みぢやありませんか」
あら、伊太利だつていいぢやないの。西洋は西洋よ。巴里より羅馬の方が古い都なのよ」
「古いばかりぢや、駄目だよ。僕も近いうち巴里へ行くんだ。僕と一緒に行かない?」
、萱野夫妻は、ピッコロミリ夫人にも相談して二人をしばらく巴里へ遊びにやることにした。勉強は無理、商売はあてにならず
は首をひねつたが、まあ、お金のある人は巴里で暮すに限ると、婉曲な同意のしかたをしたのである。
は朧ろげな記憶を辿つて、子供の時代を過した巴里のこと、彼が十五の時死んだ母親のこと、南仏の小都会に
水蒸気のなかで活気を見せはじめた。世界記録を目指して巴里を出発したフランスの飛行機が、終点の日本へ飛ぶ最後の着陸を予定
「あなたはたしか巴里ははじめてですね。お祖母さんからよくボア・ド・ブウロオニュの話を聞かさ
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日には、京城から弘も帰つて来た。郷里の熊本からは、親戚のものも二三人出て来た。告別が済んで、
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は云へ、彼は、最近の銀座は頗る不案内である。静岡高校から京城の大学へと、彼の東京生活は、その期間を通じて
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神戸では知合を訪ねるからと、こつちは諜し合せて別々の行動を取ること
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「東京も変つたな。しかし、震災前より、好いとは云へないね」
「いや、東京ばかりぢやない。何処も、都会といふ都会は近頃台なしだ。しかし、これ
を聴きながら、見はつてゐた瞼を大きくしばたたいた。東京が乱雑なことはわかつてゐるが、欧羅巴の大都市などといふの
今でこそ東京市の中にはひつてゐるが以前この家を建てた頃は、まだ
で、四人が、東京の夜の灯を目指して、郊外の停車場へ出る途中、梨枝子は常に
不案内である。静岡高校から京城の大学へと、彼の東京生活は、その期間を通じて、僅か数ヶ月なのだから、こんなところが
これが東京の代表的な芸者であるかどうかは知らぬが、たやすく男の心を
ひで傭ひ入れ、主人の主計監は一週に一度東京へ出て、ある購買組合の事務所に顔を出し、その序でに食料品を
「それ、東京へお土産に持つてくといいや」
、梨枝子さんが少し深いところへ行つたつて、いきなり、もう東京へ帰れなんて云ふの。本気で云ふのよ。そんなの、失礼ねえ。梨枝子
、まだいいつて、僕、思つたのが失敗さ。東京へ帰れつて云つたのが、こたへたんだなあ」
それから二三日たつて、父が珍しく東京へ出た留守に、ピッコロミリ夫人が萱野夫人と息子の安里を連れて、
南洋へ帰つてから、あらためて上の学校へはひる目的で東京へ出て来たのだが、ふとしたことから生活が荒み、仕送り
たのだが、この有様にはまつたく一驚した。東京の人たちはなにをしてゐるのであらうか? 家庭内の事情を
言ふまでもなく、お前に遺す財産はなにもない。東京の家屋敷も叔母さんの手に渡した。くれぐれも相済まぬ。パパの
墓の心配などするに及ばぬ。遺骨も東京へ送る必要なし。ここの共同墓地へ仮埋葬しただけでよろしい。
をどるといふ経験は珍しくなく、例の房州の海岸から東京の家へ帰らずに何処かへ姿をくらました時の如きは、責任感
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か。八時からのに間に合ふぜ、今週は日比谷がいいらしいよ」
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新宿でタクシイを拾ひ、嶺太郎はさつさと自分で助手台に飛び乗
たでせう、その方も来てらしつて、帰りに新宿まで送るつて、ご自分の車があるもんだから、無理に乗せられちまつ
「新宿」
「あら、新宿まで……? 序でに家まで送つて下さらない。それにはね、
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を告白する。それで批評はおしまひである。口直しに銀座へ出てお茶でも飲まふといふことになつた。尤も、愉快に
とは云へ、彼は、最近の銀座は頗る不案内である。静岡高校から京城の大学へと、彼の東京生活
巻き込まれ、自分の観た映画も面白くなかつたとか、銀座の喫茶店で梨枝子が不機嫌になつたとかいふ話を、朗らかにまくし立てた
「見たことぐらゐあつてよ。銀座を歩いてるぢやありませんか」
事務員の言葉をあてにして、彼女は、その間に銀座でもぶらついて来ようと思つた。いろんなことで頭がいつぱいだつた。なに
で、あの日、梨枝子の後ろ姿を銀座で見かけ、追ひついてポンと背中を叩いたのが二人の再会であつ
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やがて、新橋の角を、右へ曲らうとすると、一台の自動車が、四
いいのに……。映画があんまりつまらないもんだから、新橋演舞場でものぞいてみようと思つたの。さうしたら、あんた知らないかしら
がいいところへ案内しよう。女城主、どうです、あなたは新橋の芸者といふものを見たことはないでせう」
云ひたかつた。しかし、問はれるままに、低く「新橋」と答へた。
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弘が上野から発つた日の晩、一枝はほつとして、梨枝子の部屋をのぞいた